2005年07月12日(火)

続・iPodの音質は「悪い」のか?

【藤本健の週刊 Digital Audio Laboratory】iPodに最適なMP3を作る その1〜 MP3エンコーダにまつわる噂を検証 〜(AV Watch)

AV Watchの名物連載の1つ「藤本健の週刊 Digital Audio Laboratory」の藤本健氏より先日書いたiPodの音質は「悪い」のか?というエントリーに関して問い合わせを頂いた。で、それに基づいた記事がAV Watchにアップされた模様。

記事自体に対して反論みたいなことをするつもりはないのだが、藤本氏はあのエントリーで俺が言いたかった部分とは別の方向を見ているようなので、フォロー・補足の意味で上記記事に対して適宜引用しつつ言及しようと思う。

「音楽配信メモ」の津田大介氏に問い合わせると、最も主張していたのは、「iPodのイコライザ設定をRockにすると、低音が強調されすぎて、音が割れてしまう。これは製品として問題である」という点だった。

これは要するに「iPod(iTunesでエンコードしたMP3ファイル)に対する音質的な不満があるというよりも、むしろiPodのアウトプットに問題がある」という意味。iTunesでエンコードしたMP3ファイルをそのままiTunesなりWinampで聴く分には多少EQで低音を強調したところでiPodで起きるような低音割れ現象は起きない。なのに、iPodに転送して低音をブーストするEQを選択すると音割れ現象が起きてしまう。ソースには問題がないのに、出力の部分で(しかもプリセットの範囲内の使い方で)こういう不愉快な音割れ現象が起きてしまうことが、オーディオ製品として一定のレベルに達してないんじゃないの? ということが言いたいわけだ。実際、iTunesで作ったMP3をいくつかほかの携帯音楽プレーヤーに転送して低音強調系のEQ設定で聴いてみたが、iPodのように音割れするようなプレーヤーは皆無だった。となると、問題なのは「ソース」ではなく、再生機器にあるのだと俺は考える。

ただし、前回の記事で紹介したように低音強調系のEQにさえしなければ、iPodは音割れすることは少なく、音質的に比較的自然な出音が楽しめるプレーヤーだとは思う。ある程度そういった特性を知っていれば、音割れ現象は回避できるわけでその意味では「致命的」とまでは言えないのかもしれない(が、個人的にはもう少し低音出した状態で聴きたいと思うから不満があるわけだ)。デコーダに問題があるのか、単にヘッドホン端子の出力部分の問題なのか、あるいはほかに原因があるのかはわからないが、個人的にはそこまで修正が難しい問題だとは思わないので、アップルに対してはこれを「問題」と認識してもらって早く修正してもらいたいなーとは思う。もちろんこれは個人的な希望だよ。

ちなみにこの前の記事で「"JAZZ"に固定しろ」と書いたのは、それが最善な策であるという主張ではなく(最善な策は曲ごとにもっとも自分が気持ちよく聴けるEQ設定を見つけて変更することだ)、ロックなどのジャンルの曲をたくさん聴いたとき、JAZZの設定であれば音割れが発生することが少なく、自然に聞けることが多かったという俺や友人の経験則であり、加えて言えば俺の音質の好みでしかなかったりもする。ただ、この方法を教えた人にはほぼ好評ではあったので、この「192Kbps&JAZZ固定」はある種のメソッドとして(現状では)有効だろうという確信もある。もちろん、好みじゃない人はほかのやり方を見つけてくれればいい。オーディオってのはそういうものだし、普段EQをかけずに音楽を楽しむという藤本氏がこの提案に対して「半信半疑」と書いたこともまったく正しいと思う。

個人的には、イコライザは基本的にいじらない主義なので、気にしていなかったが、周りの人に聞いてみると、「低音と高音をブーストさせて聴くのが好き」という人が結構多い。

まぁロックやテクノはドンシャリで聴くのが気持ちいいという人が多いのは事実。どんなマスタリングエンジニアだって、細かい音質の調整はモニタースピーカーだけでなく、民生用のちゃっちい(ドンシャリになりがちな)ラジカセでもモニタリングして調整するわけで、この手のユーザーの利便性を追求したオーディオ機器やiTunes、iPodに対して原音志向を前提にして話をするのはちょっと無理があるのではないかとも思う。

あと、気になったのは「ビットレートは128Kbpsで十分」という部分。

音質の良し悪しは、16kHz以上の高域がオリジナルに近い形で出ているかが決め手のひとつとなっていたが、128kbps以上に設定しても、あまり大きく変わりがないので、こうした結論を出したのだ。確かに、192kbpsさらには256kbpsとビットレートを上げていくと、より高い音が出るのだが、必ずしもオリジナルに忠実な音が出ているわけではない。まあ、先ほどのiTunesほどではないが、やや変形された形での音となる。

確かにグラフだけ見ればそうだが、iTunesで作った128KbpsのMP3と192KbpsのMP3では、明らかな音の違いが感じ取れると俺は思う。ハイハットの音とかを注意して聴けば多くの人が違いは分かるはずだ。もちろん、ヘッドフォンがショボかったりすればわからないだろうが、ER-4SSHURE E2Cのような密閉型のヘッドフォンを使えば、違いもわかりやすくなるはずだ。

もっとも、ビットレートを上げれば当然ファイルサイズも大きくなるわけで、128kbpsを256kbpsにすれば、ちょうど倍のサイズとなる。つまり、iPodなどのプレイヤーに収録できる曲の数が半分になるわけだが、それに見合うほどの高音質化ではない、ということだ。実際に音を聞いた印象では、128kbpsを超えても、ほとんど違いが感じられなかったため、128kbpsがベストという結論を出していた。

ここが一番大きなポイントだと思うのだが、藤本氏には「iTunesでリッピングした楽曲は必ずiPodだけで聴くわけではない」という視点が欠けているのではないかと思う。iTunesでリッピングした楽曲は基本的にハードディスク内に溜め込んでおくものだ。特に音楽CDを何百枚、何千枚も持っているような人は、iTunesで手持ちのCDをライブラリ化してしまえばいちいち聴きたいCDを探す苦労が大幅に軽減される。こうしたライブラリ化のメリットでiTunesをメインの(あるいはカジュアルな)リスニング環境にしている人は多い。有名どころでは俺がインタビューしたアーティストの坂本龍一氏や、音楽評論家の小野島大氏などは、既にそういうリスニングスタイルになっている(むろん、彼らはきちんとしたオーディオシステムでCDから音楽を聴くという行為を完全にやめているわけではないのでその点は誤解なきよう)し、音楽評論家の萩原健太氏もかなり早くから所有するCDをMP3化することのメリットを訴えていた(萩原氏はPC Japan誌で非常に濃いMP3関連の連載記事も執筆していた)。もちろん、そうしたアーティストや音楽評論家だけでなく、多くの音楽フリークが手持ちのCDをiTunesでライブラリ化して楽しんでいる。

iPodの容量はまだ60GB程度だが、パソコンのハードディスクはここ数年で非常に価格対容量比が上がった。あくまでパソコン内にとどめておくのであれば128KbpsのMP3を192Kbpsに上げたところで容量的に大した負担にはならない。しかもMP3は非可逆圧縮。MP3化したものを「長期保存」しておきたいのであれば、ギリギリまで音質に優れたビットレートまで上げて保存しておきたいと思うのは人情だろう。もっと言えば、20GBくらい容量があるiPodであれば、128Kbpsであろうが192Kbpsであろうが十分な曲数は収録できる。シリコンオーディオのメモリが128MBとか256MBくらいしかなかった時代ならともかく、今時「収録できる楽曲数を稼ぐためにビットレートを低めに設定する」という言説にどれだけ説得力があるのだろうかと個人的には思ってしまう。

もちろん、こういうことを書くと「しょせん圧縮されたMP3ごときで何を言ってるのか」「しょせん携帯プレーヤーじゃん。そういうこだわり自体が無意味」とかそういう突っ込みをしてくる人はいるが、利便性を第一に追求したiTunesという環境を選択した中でどこまで音質にこだわるのかということは決して無意味ではない。また、オーディオ機器開発の現場でもはやMP3もバカにできないものになっている。実際にとある国内オーディオ機器メーカーに取材したときには「昔はMP3なんて見向きもしてなかったが、最近きちんとMP3を研究したら、MP3もDSPの設計や出力のさせ方でCD並みに音質が良くなる。これは意外だった」という答えが返ってきた。オーディオ機器メーカーにとって今はピュア・オーディオ的なニーズは企業として「金」にならない。そんな中、今消費者の中で圧倒的に普及し始めているMP3にターゲットを絞って音質改良を重ねていこうとするのはビジネス判断として確実に正しい。

LAMEだって数年の開発期間を経て、ここまで音質が良くなってきたのだ。もはや「そもそも圧縮音声なんだから音質を云々するのがおかしい」というような言説自体が意味を失っているのではないだろうか。だって、俺らが語ってるのはピュア・オーディオの世界の話じゃないんだしね。ピュア・オーディオじゃなくても、できるだけ良い音で聴きたい音楽ファンってのは確実にいるのだ。そしてこういう「デジタルでパソコンに取り込んだ音楽の音質を良くしていく」ということの延長にエイベックスの高音質化プロジェクトや非圧縮音声の配信などがあるのだと俺は思う。

もちろん、この連載はまだ1回目で導入に過ぎない。2回目以降、藤本氏によってiPodに最適なMP3の高音質化のノウハウが解説されていくはずだ。そういう意味でも今後が注目される連載ではないだろうか。

だが、単にエンコーダの音質を上げるというだけならLAME使えばいいだけの話だし、Macintochであればこちらなどで提供されているiTunesのエンコードをLAMEで行えるスクリプトを導入すれば解決してしまう問題なような気もする。そしていくらMP3エンコードの質が上がったところで、低音音割れに代表されるiPodの出力問題は解決できない。

あーだこーだ俺もこの問題について言っているが、自分のMP3ライブラリは、悩んだ挙げ句最終的にはWindowsのiTunes内蔵のMP3エンコーダ(192Kbps)でライブラリを構築してしまっている。確かにLAMEは音が良いのだがエンコードに時間がかかるので、5分くらいで1アルバムをMP3化できるiTunesの便利さにはかなわないよなーとなってしまうのだ。あとは何か良いソフトがあってiPodに最適なMP3ができたとしても、それがiTunesと簡単に連携できないようだと厳しいんじゃないかという懸念もある。iTunesとiPodが素晴らしいのはそれこそパソコンの知識とか全然ない女の子でも使える優れた操作性にあるわけでね。その優れた操作性に一度慣れてしまった人はプロセスが多くなることに耐えられないんじゃないだろうか。そういう意味では現状音質もiTunesの利便性も求めたいという人はMac miniでも買ってiTunesとLAMEエンコードスクリプトを使うという方法しかないだろう。あとは「LAMEのコマンドラインオプションを試すことが生き甲斐です」みたいなギークが、iPodに一番なじむオプションを見つけてくれればいいね!

あと、作成されるファイルの汎用性にこだわらないのならば、MP3じゃなくてAACにした方が(iTunesのエンコーダを使う限り)音質は良いので、そっちをオススメしておきますよ。

(追記)
RedDustRec: weblogでも藤本氏に対するツッコミが。

・再生環境(主にスピーカーと音量なんだけど)の違いはマスタリングで吸収できると思えない。あっちを立てるとこっちが立たず、ってジレンマだろう。 BOSE みたいに再生システムに補正機能を持たせるのが一番賢いやり方だと思う。
・みんな高音と低音をブーストしたのが好きっていうのは、趣味の問題もあるけど、聴く音量が小さいと耳が高音と低音に対する感度が鈍るから、っていうのと再生機器がそれほどワイドレンジじゃないっていうのと。まあ、合理的な理由もあるかと。

これについて言うと、日本の場合、住環境の問題も大きいような気がする。小さい音で常にLOUDNESSオンみたいな。それがもうデフォルトの耳になっているような。

「聴く音量が小さいと耳が高音と低音に対する感度が鈍る」という話はCCCDのときにもあったなぁ。なんかCDSが変なフィルタ通しているようで、同じ曲のCD-DA盤より-2dBくらい音量が下がるから聞き比べたときに高音の伸びがなくなるように「聞こえる」っていう。あのときにも思ったけど、耳の良さってホント人それぞれで個人差が大きいから、「この音質で十分」とか言い切るのって本当に危険なんだよなーと思った。実は俺は-2dBの差を聞き分けられるほど繊細な耳は持っていないんだけど、それでも192Kbpsと128Kbpsの違いは明確に分かるしなぁ。どっちが良いというより音質が違うんだよね。

藤本氏のWAVE波形で音質をチェックするというのは、昔から彼がやっている方法論で、有効性もあるとは思うけど、dkexさんが指摘してるみたいに別の角度からの検証なり、オーディオ評論家呼んでくるなり、新しいスタンスの音質検証みたいな方向性が見えるといいんじゃないかと個人的には思うね。

| 携帯型プレーヤー | この記事のURI | Posted at 02時22分 |

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