2006年03月29日(水)

音楽CDの再販制度は崩壊するか?

緊急告知!! (正々堂々blog)
音楽CD再販制度に反対するパブコメ(Where is a limit?)
「知的財産推進計画2006」の策定に向けた意見募集(ふっかつ!れしのお探しモノげっき)
レコード業界が知財パブコメに組織票かも+合わせたように輸入権行使(趣味の問題2)
緊急警報(The Casuarina Tree)
「知的財産推進計画2006」の策定に向けた意見募集(小心者の杖日記)
知財推進計画2006のパブコメで組織票大量コピペ中とか(忘れようとしても思い出せない日記 rebirth)

電気用品安全法問題の解決(という表現が妥当ではないことは重々承知の上で、ここでは便宜的に「解決」としておこう)に尽力した衆議院議員川内博史氏のブログで「緊急告知」が。6月に決定する政府の知的財産戦略本部の作成する「知財戦略2006」のパブリックコメント募集に、「音楽CD再販制度絶対護持」という感じのレコード会社社員と見られる大量の組織票が投下されている模様。このままでは輸入権の二の舞(あのときも同じことがあった)になるので、皆さん音楽CDの再販制度がおかしいと思っている人はみなさんパブリックコメント出しましょうね、という話題。


今年2月、政府の知財本部は以下のような感じな提言をまとめた。

コンテンツクリエイターとユーザーの「大国」に――知財戦略本部提言(ITmedia)
通信と放送の融合に著作権法の改正も検討を - 知財本部が提言(MYCOM PC WEB)

IPマルチキャスト放送に関しては「通信」扱いじゃなくて「放送」扱いにして、事後許諾で勝手に音楽などの権利処理を行えるようにしろというアレだ。で、報道ではこの側面ばかりが強調されていしまったが、これと同じ流れで知財本部は2月2日に開かれたコンテンツ専門調査会デジタルコンテンツ・ワーキンググループにおいて、デジタルコンテンツの振興戦略(案)(←リンク先PDF)というものを出している。ここで「提言」として挙げられているもので重要なのはここ

(提言3)ユーザーが豊かなコンテンツを楽しめるようにする
(1)過去に作られたコンテンツを利用するための著作権契約上の課題の解決
(2)音楽用CDにおける再販売価格維持制度の見直し
(3)コンテンツをより楽しむためのユビキタスネットワーク技術の実用化

というところ。要は知財本部がもう「音楽CDの再販制度はいらねーんじゃねーの?」と提言したわけだ。

ところが、レコード業界の中でもっとも「再販制度絶対護持派」である元エイベックス会長の依田巽氏がこれに吹き上がった。この提言を受けて開催された2月20日のコンテンツ専門調査会では依田さんがこの方針に対して以下のように述べている。

「(提言3)ユーザーが豊かなコンテンツを楽しめるようにする」ための「解決策」の「(2)音楽用CDにおける再販売価格維持制度の見直し」についてですが、音楽ソフトの持つ特性、または我が国の再販制度の歴史的背景、存在意義等をいろいろ考えてみますと、今回まだまだ関係業界、諸団体等との十分な検討がなされたとは思えませんし、もっと細かく問題点の整理がなされ、デジタルコンテンツ分科会において、再販価格維持制度の廃止を示唆する提言を盛り込む段階で、もう少し細部にわたった検討が必要ではなかろうかと思っております。

それは資料を御一読いただければと思いますが、今すぐに廃止を論議するというのは、ちょっと時期尚早ではなかろうかと思います。当コンテンツ専門調査会でも論議をする環境下にあるのかどうか、それも含めて、できればこの問題については、もう少し様子を見てからにしていただきたいということが、業界としても声が上がってきております。これは決して業界の援護ではなくて、専門調査員としての私の意見として御報告申し上げたいと思います。

はいはい皆さん、最後のところが笑いどころですよー。

いろいろ漏れ聞こえてくる話を総合すると、音楽CDの再販制度をどうするかというのはレコード会社によって(つまり、レコ協内部でも)対応はかなりまちまちだという。ある種のまだら模様ということだ。これはなぜか? レコード会社によって事情は違うのだが、ざっくりというと再販制度をなくしてくれた方が「楽」になるレコード会社があるからだ。CDの再販制度というのは、基本的に「返品」とセットになっている。小売店(CDショップ)に納品された売れないCDは発売元に「返品」し、小売店は納品時に支払ったお金をレコード会社から「返して」もらえる。これが小売店にはリスクヘッジとなり、いろいろな商品を仕入れることができ、再販制度維持派のよく主張する「カタログの多様性」につながっていた部分があったわけだ。

しかし、現実は放漫経営していた小売店があったり、レコード業界自体の景気が悪くなったりしたことで、小売店といえど仕入れたものを100%レコード会社に返品することができなくなった(これもその小売店がレコード会社の「特約店」であるか否かで扱いが違ったりするのだが、話がややこしくなるのでおおざっぱに返品がしにくくなった状況があると思ってもらえればいいだろう)。で、レコード会社の方に話を戻すと、以前よりかは返品の数が少なくなってきたとはいえ、とにかく今はCDが売れないからメジャーのレコード会社が出してきたCDが大量に市場の小売店の棚の中に「不良在庫」として眠っている。それらの売れないCDはいずれ返品されてくるわけだが、返品されてきたときにそれは当然小売店に返金しなきゃならない。棚の奥深くにいってしまったマイナーなCDなんてほとんど買われることがない。返品確実なCDってのはレコード会社にとっては「不良債権」なのだ。しかし、返品とセットである現在の再販制度がもしなくなったら、レコード会社的には、それらの不良債権化したCDを引き取らなくても済むようになる。つまり、一時的にそういう不良債権を「リセット」することができるようになるわけだ。体力のあるレコード会社ならそのあたりの不良債権もまだ何とか飲み込める部分はあるだろうが、体力のないところはむしろ再販制度なんかなくしてしまって、不良債権リセットして一から出直したいと考えるところもあるだろう。まぁもちろん、そういう経済的な事情だけでなく、いろいろな思惑でレコード会社は再販に対しては保持したいと思っているところもあれば、なくなってもいいかーと思っているところもあるということだ。

実際問題として、音楽CDの再販は時限再販制度が導入されてきてからどんどん骨抜き化はされていて今はほとんどの商品が半年以内に再販が切れるようになっている。ある意味では有名無実化している部分もあるので、その意味で「もういっそのことなくしちゃえよ」と思っている会社もあるんじゃないかと。

で、音楽業界でどこが一番この再販制度廃止の動きに反対しているか。その絶対的存在が他ならぬ依田さんなんだよね。エイベックスをああいう形で追い出されちゃった依田さんも、まだ政治の世界とのつながりでいえば抜群の力を持っている。エイベックスから退いた後もドリーミュージックに資本投下して「音楽業界に依田巽あり」というところを示している(投資自体は全然回収できてないみたいだけど。そらまぁ売れてるアーティストいないもんなぁ)し、この再販廃止反対っていうパフォーマンス自体が依田さんにとってはアイデンティティ的に重要なことなんじゃないかと俺なんかからは見える。その意味で考えると、さっき「笑いどころ」と書いちゃったけど「業界の援護ではなくて、専門調査員としての私の意見」というのは正しい表現なのかも知れないね。

で、依田さんの次に再販に反対している勢力はどこか。実はそれが小売店なんだな(正確に言うと小売店の組合である日レ商。ただし、日レ商内部もこの問題に関しては意見が割れている部分もあるようだ)。小売店としては、返品できる環境が残って欲しいという素朴な部分もあるんだろうけど、多分一番はシステムがシステムとして保持されなくなったとき、彼らは「音楽CDをいくらで売ればいいのかわからない」んだよね。昔ながらの小売店が時限再販切れたものをいくらで売ればわからないうちに、Amazonが音楽CD20%オフセールをやったり、再販対象外扱いになるDVD付き音楽CDをあらかじめ10%引きで売ったりするわけですよ。加えてAmazonはまさに小売店の奥でホコリをかぶっている「不良債権」化したCDもAmazonにとっては貴重な「ロングテール」であり、ユーザーが勝手に検索機能から見つけて注文してくれるわけだから、もうなんていうかリアルの小売店はよっぽどのことをやらないと生き残れないよね。

もっとも小売店の人もバカじゃないから今のままで良いとは思ってないだろうし、大手小売店の偉い人の中には「再販なくなることは我々にとってはピンチかもしれないが、チャンスでもある」みたいなことを非公式に言ってる人もいる。音楽流通のすべてがAmazonとiTMSに吸収されてもそれはそれでつまらない世界だし、現実はそこまで極端には動かない。だからこそ、再販制度なくすってことは小売店が今後生き残る意味では良いきっかけになるんじゃないかな。

まぁもちろん、再販制度に賛成、反対という立場はレコード会社によって事情が違うだろうし、俺が上に挙げた理由だけじゃないのも確か。ただ、大枠としてはそういう話が背景にはあったりするのですよ、と理解してもらえればいいだろう。

さて、じゃあ実際問題として音楽CDの再販制度はなくなるのか。依田さんが吼えた2月20日の4日後となる2月24日、知的財産戦略本部会合において、小坂文部科学大臣が再販問題に関して非常にトーンダウンした発言を行った。

新聞・書籍・音楽等の再販制度につきましては、著作物を全国同一価格で容易に入手することを可能とするほか、更に言うならば返品を可能とするような制度の採用が行われるわけでありますが、それによりまして全国どの店舗においても地域的な偏在なく、かつ流行にとらわれない多様な品揃えを可能とするなど、これらの点で文化政策上も重要な意義を有していると考えております。

特に音楽CDなどの再販につきましては、ネット上での音楽配信の普及、地域、高齢者などのデジタルディバイド、すなわちそういった機器が使えるか、使えないかの問題が出てまいりますので、こういった問題等を合わせて考えてみるならば、現時点では再販期間を時限的に運用する。すなわち一定期間、流行のもの、売れ筋のものについては再販を維持するが、一定期間経過後はそれを解除して競争的に流通できるようにするという時限的再販制度の採用が適切であると考えております。

同制度の在り方につきましては、文化振興の観点から十分な議論が行われるとともに、音楽関係者の意見についても十分に配慮し、慎重な議論が行われることを強く期待いたしております。

つまり、これは現状の時限再販容認ということだ。これと同時期に公取の上杉総長が読売新聞の取材に応えて音楽CDの再販除外に否定的な見方を示している。知財本部の提言がかなり強気なものだったことと比べると、このあたりで何らかの揺り戻しが働いていると見るのが自然だろう。まぁ、最初の指針では割と過激なことを提示して、議論の過程で「関係各団体との議論を尽くした上で、時期尚早と判断」みたいなところに落ち着くのが予定調和だとも言えるわけで、今回のこれもそういう話なのかもしれないね。ただ、以前はこういう再販制度見直し議論が出てくると、音楽業界は業界を挙げて反対した。とばっちりを受けたくない新聞・雑誌もこのことをタブーとして扱ってきたわけだが、最近はさっきも書いたようにレコード会社の内部にもう再販制度にこだわる必要ないんんじゃないのと考える人も出てきているし、役所的にもとりあえず新聞・雑誌に再販廃止の話をしてもどうやっても拒否反応が多くなるから、音楽CDだけ切り離して議論するという方法論を出したわけだ。そうすれば新聞も雑誌も否定しないだろうという思惑がある。そういう面でも現実的に本当に音楽CDの再販がなくなる可能性が十分に出てきていると言える。間違いなく近い将来、音楽CDの再販制度はなくなるのだろう。だが、それがいつになるのかは俺もわからない。

で、お前はどうなんだよと聞かれると、実は率直なところ当面はどっちでもいいんじゃないの? という感じだったりもする。日本の音楽CDは明らかに高すぎると思っているし、そのことによる販売機会の損失がかなり業界の構造的問題の1つだと俺は思っているけど、それはもはや再販制度があるから高価格化しているとも思えないんだよね。単純に時限再販でいいから、最初の価格を安くしろよっていう。ただ、今着うたやら音楽配信的なものが伸びてきて、間違いなく業界は変革の時代を迎えているわけだ。そのタイミングで再販をなくすのは業界全体が新たな気持ちでリスタートを切るという意味では悪くない選択だとも思う。

まぁレンタルの問題どうするかってのは横たわってるけど、レンタルだってもはや立派なセル店である(レンタル専業の業者はレンタル全体の数%でしかなく、ほとんどのレンタルはセルも行う複合店形態だ。そして、そうした複合店はCD小売店全体の3〜4割を占めている。TSUTAYAの伸び見てればわかるでしょ? しかも、この前の報道であったように大手小売店の新星堂にTSUTAYAが資本投下して新星堂がTSUTAYA傘下に収まることになった。今以上にレンタルと小売りを明確に区別することは難しくなっていくわけですよ)わけで、そうなるとそれを全部潰しますかってのも無理筋な話だよなぁっていう。

再販廃止っていう意味では、お前が所属している出版の業界はどうなんだよ? と言われると、日販トーハンが支配するいびつな状況が改善されるのなら再販なくなった方がいいんじゃないのか、くらいには思ってる。つーか、再販制度がもたらしてくれたポジティブな「カタログの確保」なんて、Amazonのなか見!検索とかGoogle Printがきっちりロングテール拾ってくれるだろうからいらねーよ! と思わなくもないのだが、日本の場合世界でももっとも高水準の価格の音楽CDと違って、書籍に関しては世界でもかなり安い部類だからねぇ。1枚数十円の物理コストしかかからない音楽CDと比べて、毎年高くなる一方の紙にかかる書籍の物理コストって相当なもんですよ。それがもし再販制度廃止で瓦解してしまうとなると、それはそれで寂しくはなりますわな。だから、ちょっと俺は結論出せない。まぁ俺は単行本で食ってるライターでもないのでいいっちゃいいんだけど。

話がずれまくった。いずれにせよ、パブリックコメントの締切は今日(3月29日)の午後5時までです。歪んだ組織票で政策が決まっていくってのは、普通に腹立ちますわな。再販制度に対して思うところある人はぜひ簡単なコメントでも良いので、送るといいと思いますよ。官僚の人は、思った以上にパブリックコメントを「民意のアリバイ」として利用……いやそれは言葉悪いな。きちんとパブリックコメントを活かしてますしね。


最後に音楽CDの再販問題を考える際にはこのあたりも読んでおくといいかも。
再販制度は崩壊するか(コデラ ノブログ)
これが(owner's log)
ビックリしました(owner's log)

| 音楽業界全般 | この記事のURI | Posted at 02時54分 |

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