2006年04月08日(土)

私的録音録画小委員会参加についていろいろ

「iPod課金」の本格議論がスタート(ITmedia)
私的録音録画補償金制度の抜本的見直し、2007年末に文化審議会で結論(INTERNET Watch)
著作権分科会 私的録音録画小委員会(第1回)(zfyl)

ということで参加してきましたよ。私的録音小委員会。ニュース記事だとわかりにくいけど、基本的に第1回目ということで議論らしい議論はなく、委員一人ずつこの問題に対して思っているところを述べて終わり、っつー感じで委員会は終わりました。以前再販制度問題を討議する委員会を傍聴したことがあって、そのときに「こんだけ人がいて、2時間ちょいしか時間がなくて議論つーよりも、声が大きい人が独演会やるような場を何回かやったところで、結論なんか出ないよなー」と思ったので、そういう場に発言者として参加することは非常に不思議なものを感じたりもしますです、はい。

INTERNET Watchのレポートはほぼ僕の発言をトレースしてはいるのですが、こういうレポート記事の宿命といいますか、細かいニュアンスは違ったりします。

どんなこと話したか、話す際に使ったメモ書きを転載すると……

・津田です。普段は雑誌や新聞にITと音楽にまつわるさまざまな問題を解説するような記事を書いてます。
・今回こういう場所に呼んでいただいたということで、そういう物書きの立場でこの問題を語るということもそうですが、僕自身一消費者でもあるので、ネットに詳しい消費者がこうした問題についてどう思っているのか、一消費者としての視点からも語らせてもらえればと思います。
・まず、消費者の感覚としてはCDやDVDを購入した時点で「その音楽を聴く権利、DVDであれば観る権利を買った」という感覚。
・買った音楽は家でも聴きたいし、車でも聴きたいし、iPodでも聴きたい。
・しかし現実は技術的保護手段がかけられるのが全体的な潮流。
・私的録音補償金制度に限らないが、そうした消費者の聴きたい欲求を制限する方向に業界が流れると、「そんな自由に聴けない音楽は買わなくていい」という感覚になる。
・それで売上落ちるのは業界にとっても良くないんじゃ。
・それがこの制度や議論を見て思う全体的なこと。
・ただ、技術的保護手段と違い、私的録音補償金制度そのものはそうした聴きたい欲求を制限するものではない。
・制度が作られた趣旨とは反するかもしれないが一定の安価な料金を払うことで「コピーして聴きたい欲求を担保」するのなら消費者も納得するのではないか。
・それが唯一無二の結論とは僕自身まったく思わないが、そういう視点での議論があっても良いのではないか。

こんな感じです。

INTERNET Watchの記事の

IT・音楽ジャーナリストの津田大介委員は「消費者は音楽CDやDVDを購入した時点で、聴く権利や視聴する権利を購入したという感覚だ。家でも聴きたいし、車の中でも聴きたい。でも過度なDRMによって保護され、自由に聴けない場合も多い。そういう音楽や映画は結果的に『聴かなくてもいいや』となってしまう。業界にとっても悪いことなのではないか。補償金制度そのものはユーザーの欲求を妨げるものではないはず。補償金制度に支払うことで、ユーザーの欲求が担保されるのであれば補償金制度にも意味がある」とコメントした。

は、ほぼ僕の言いたかったことを伝えてるんですけど、最後の部分のニュアンスだけ違うかな。「意味がある」という強い言い切りでこの制度を肯定したわけじゃなくて、そういう視点での議論があってもいいんじゃないの? と初回なのであえて振ってみただけですよ。

あとは感覚としては最初に自分の立場として「一消費者」と言ったような気がしてて、それは要するに消費者の意見を自分が代表できるとは思ってないんだよね。特にこういうところ見るとホントそう思う。そういう意味では俺は物書きとしての立場と消費者としての立場の(この委員会における)置きどころを今後考えていかないといけないのだなーと思うわけですよ。

で、ウェブでは利害関係を隠したポジショントークが嫌われるみたいなので、私的録音補償金問題に関する俺のポジションと現状どう思っているかの率直なところを書いておこうと思う。

まず、現時点での俺の利害関係だが。

・私的録音補償金制度に直接関係する企業(iPodを発売しているアップルコンピュータや、ネットワークウォークマンを発売しているソニー、その他携帯デジタル音楽プレーヤーのメーカー、MDや音楽用CD-R、ハードディスクメーカーなど)から、現在利益供与を受けている立場ではない。過去に何らかの利益供与やコンサル料などをもらったこともない(ただし、製品発表会に行ったときにiTMSのダウンロードカードや松下の製品のサンプルをもらったことなどはある)。

・現在所有している携帯デジタル音楽プレーヤーは第5世代iPod、松下のD-Snap、アイリバージャパンのH320。

・現時点で小委員会に参加している方々の所属する団体から利益供与やコンサル料などを受ける立場ではない。現時点でそうした団体に出向いて勉強会の講師などを務めた経験などはない。

・JASRACについては2004年と2005年に行われたシンポジウムにパネリストとして出演し、出演料をいただいた。

・CDレンタル業者については、2005年にレンタル業者をまとめる日本コンパクトディスク・ビデオレンタル商業組合(CDVJ)主催のシンポジウムに慶應義塾大学助教授の田中辰雄氏と一緒に出演。音楽ユーザーのアンケートの分析などを行い、出演料をいただいた。また、CDVJ主催のホームエンターテイメント産業展にてパネリストの一人として出演し、出演料をいただいた。また、2006年度全国中小企業団体中央会「組合情報ネットワークシステム開発事業」で、レンタル・セル業者向けの音楽試聴システム開発事業の委員長に就任し、コンテンツ作成費などをいただいた。

・私的録音補償金の分配ルートにある共通目的事業の1つである、音楽制作者連盟の無料ライブ事業の企画部会の委員として、ライブイベントの企画立案に参加している。


利害関係はこんな感じ。ぶっちゃけギャラはどれも常識的な範囲内と思われるので、音楽業界からじゃんじゃんお金入って儲かってるって感じじゃないです。

で、俺はその上でこの問題についてどのように考えているかというと

・iPodはどう見ても音楽をコピーして聴くための機械であり、現状の形で私的録音補償金制度が存続するのなら、iPodは政令指定で補償金制度の対象に含めるべきだと思う。もちろん、iTMSで購入した音楽の場合、きちんと適正な分配が行われる著作権料を払っているため、iPodにコピーして聴く場合「二重取り」になるのではという指摘があることも理解している。しかし、現状ほとんどのユーザーは購入orレンタルした音楽CDからリッピングしたものをiPodに聴いている人が大半なわけであり、この二重取り構造だけを軸にiPod課金は免れるべきという意見は説得力に欠けると思う。

・しかし、それと同時にこれで書いたように

日本の音楽業界は音楽販売チャネルの可能性を大きく広げてくれたAppleに感謝こそすれ、恨む筋合いなんて一つもない。「iPodを私的録音補償金の対象にして、金を巻き上げろ」なんてケツの穴の小さいこと言ってないで、感謝状の一つでも贈ったらどうだろうか。

と思っていることも確かではある。まさにこういうタイミングでiPod購入したユーザーは音楽業界に多くお金を落とすようになっているという調査結果も発表されているわけでね。

・で、ここからが一番大事なのだが、俺自身原則論としては段階的にでもいいから廃止の方向に向かうべきだと思っている。二重取り問題にしても、徴収システムの都合上適正な分配が難しいという問題にしても、録音録画を行わない用途で購入されたときの返還金制度が実効性がないものになっている問題にしても、共通目的事業やこの制度自体が消費者に全然認知されていないという問題にしても、運用面でいろいろな問題を抱えていることは明らかなわけで、これ以上どんぶり勘定の徴収だけ増やしてどうするんだよ、という素朴な感情がないわけでもない。つまり、結論としては、先に補償金制度の存続そのものから議論すべきであり、iPodを対象に含めるかどうかというのは実は些末な問題なんじゃないかということだ。

・もちろん、補償金制度をなくすにしろ形を変えさせるにしろ、方法論としてハードランディングでいくのか、ソフトランディングでいくのか、という問題は常につきまとうわけであり、そこのところは委員会の中のパワーバランスとお役所の持って行きたい方向で行くしかないのかな、とは思う。

で、パワーバランスというと小寺信良さんがこの問題についてブログで言及してくれた。

補償金問題セカンドステージ(コデラ ノブログ)

メンバーに音楽配信系ジャーナリストの津田大介氏がいることで安心している方もいるかもしれないが、前回の法制問題小委員会のメンバーでは権利者側が不利ということがわかったためか、今回の委員選定では補償金反対派がゴッソリ抜かれ、代わりに権利者側の人数が大幅に増強されるというフザケた事態となっている。この委員を選定したのは、やはり権利者が多数の文化審議会著作権分科会である。

特に消費者としての立場として積極的に発言を行なっていた漫画家 里中満智子氏、全地主婦連事務局長 加藤さゆり氏が抜けたのは大きい。有り体に言えば、「なんか消費者の代表っぽく見える金髪のニイチャン1人ぐらいいれとけばカッコつくだろ」という、完全に権利者主導の人選なのである。友人でもある津田氏のがんばりに期待したいところだが、あまりにも不利である。

正直なところ、さっき書いたように俺自身かなりこの問題に対しては「立ち位置」をどこにすればいいのか悩んでいる部分はある。

で、委員会メンバーの権利者と利用者・機器側のパワーバランスでいえばやはり全体的に権利者側の方が多いと俺も思うし、俺みたいな人間が呼ばれたことで「『消費者の声も聞きましたよ』的な『アリバイ作り』に俺が利用されるよな」と思うところがないわけでもない。

とはいっても、昔と違って今は議事録が完全にネットで公開され、多くの人の目に触れられる。その意味ではたとえ結論ありきで決まることであっても、どのようなプロセスでそれが決まったのか、大衆が判断できるというのは重要な意味を持っているのではないかとも思うのだ。議論を受けた上でパブリックコメントも受け付けるわけだしね。昔と比べてパブリックコメントは確実に政策決定における重要度が増してきているというのが俺の素朴な印象だ。

JASRAC登録している友人のインディーズミュージシャンがこんなことを言っていた。

「自分にも私的録音補償金の分配入って来るよ。ただ、ほとんど意味ないような金額だけど。なんでこの曲の分だけ、とかの理由も全然わからない」

実際問題として今補償金の額は20億円くらいだ。これがiPodなどの携帯デジタル音楽プレーヤーが対象になって50億円くらいまで増えたとしても、彼にはその「ほとんど意味ないような金額」が3倍になるだけでしかない。彼の作った音楽はさまざまなテレビ番組でジングルとして勝手に使われているにもかかわらずテレビからの収入も微々たるものだ(まぁこれは私的録音補償金制度の問題ではなくJASRACの放送ブランケット徴収の問題なわけだが)。ただ、このへんはいろいろな考え方ができるわけで、あえて過激なことを言ってしまうと「たかだか20億円がちゃんと分配されようが、そうでなかろうがほとんどの権利者には関係ない」とも言えるわけで、だったらこの制度はザル分配のままでもいいんじゃないの? という考え方だってありなんじゃないかと。もちろん1000億円徴収されてそれが適正に分配されてなかったら大問題だろうけど、20億円くらいならまぁ誤差の範囲で許せるんじゃないか、という面もあるんじゃないだろうか(俺が本音でそう思っているか、という話は別だけどね)。そのたかだか数十億円を適正に分配するために必要なコストって多分バカにならないし、現実的判断で考えていったらそうじゃなくてもっと大きな金額でどんぶり勘定になってるところをどうにかした方がいいんじゃないの? みたいな。で、もっと言えば「たかだか20億円なんだから、そもそもこんな制度廃止したって大した問題にはならないじゃん」という根本的な考え方だってできるだろう。そもそも消費者にとっては、なんでこんな私的録音補償金を払わされているのか納得できる理由がほとんどないわけだしね。ただ、逆の意味でこういう少額の徴収をされることで、家庭内での私的複製に対しての何かしらの担保(それは合法的な行為ですよという保証)がもたらされ、CCCDみたいなクソなメディアが市場から消えるというのなら、全然俺は私的録音補償金制度認めますよ。まぁ、そういう方向にはいかないってことは分かってるけど、それでも消費者は何に対して不満があるのかというポイントを浮き出させる意味で、そういう視点での議論があった方がいいんじゃないかとも思う。

この問題を突き詰めていくと、結局どこまでザル分配に対して本気で対応するかという話にならざるを得ないわけだが、しかし音楽CDがメインの音楽リスニング環境である以上、DRMで何とかしようと思っても限界があるのも事実なのだ。だってCDが再生できるプレーヤーって世界に10億台以上(25年の累計でな)あるんだぜ。パソコンのリッピングだけ何とかしようっていったって、CCCDの失敗を見ればそんなの無理だろうってわかるだろうし、Vistaで対応するっていったって、XP使ってフリーのリッピングソフトとか使われたらDRMなんてどうにもできない。DRMに期待するのはいいけど、それは少なくともコピーガードではなくてコピーされたものをどうトレースして分配に活かしていくかって方法論しかないとも思うんだよね。CDに関しては。でもそれも今のところの具体論としてはXCPみたいなrootkit的方向に行ってしまいがちであり、そうするとプライバシー・個人情報保護の問題が云々みたいな感じで議論が紛糾していく。まさにループ&ループ。アジアンカンフージェネレーション。テイクユアシチュエーション。ゲットザグローリーですよ。

そういういろいろな要素があり過ぎるから、はっきりいうと俺の中でこの問題は結論が出ない。もっとぶっちゃければ「どっちでもいいや」という部分がないわけでもないのだ。俺ができることは今まで予定調和に陥りがちだった議論に対してどれだけ違う視点から「石を投げられるか」でしかないと思っているし、そのための戦略を今いろいろ考えてますよ。2年間あるわけだしね。

(追記)
私的録音補償金制度についてはWikipediaの記述が詳しくて参考になりますよ。

| 著作権 | この記事のURI | Posted at 17時00分 |

_EOF_