2006年04月18日(火)

「CD売上回復!」というストーリーを作りたいレコード会社たち

音楽ソフトの年間生産実績、金額ベースで7年ぶりにプラス(ITmedia)
レコード生産額が7年ぶりに前年を上回る、iTMSなど音楽配信が好影響(INTERNET Watch)
音楽ソフト生産7年ぶり増−ネット配信がCDに好影響(SANSPO.COM)
ネット配信 CDの味方?音楽ソフト生産額4%増(YOMIURI ONLINE)

一般紙などでも報じられてることで割と注目している人が多いニュース。でもこれってある意味では数字のまやかしでしかない。そもそも「2005年」というタームで括ったときにオーディオレコードの総生産金額は他ならぬレコ協の発表した生産実績を見れば分かるが下がっている。つまり音楽バブルのピークだった1998年から7年連続でCDの売り上げは落ちたのである。これまで音楽CDの売上は「年度(4月〜翌年3月)」という単位では語られることは少なかった。大体「年度」なんて国によって異なるものだし、IFPIなり、RIAAなりほかの諸外国は通常CDの売り上げは年ベースで出しているのだから日本だってそれに合わせるのが当然だ。ではなぜ今回だけレコ協は「年度」にこだわったのか。それは「CDの売上がプラスに転じた」という「ストーリー」を喧伝したかったからに他ならない。2005年の月別生産実績を見れば分かるが、昨年の1月〜3月というのはCDがとにかく売れていない。1月こそ前年比98%だが、2月は84%、3月は78%と、とにかく春先にCDが壊滅的に売れてなかったのだ。1月〜3月の累計で平均すると前年同期比85%。落ち込みは4月に最大になるが5月以降は回復し、2005年全体としては3672億円となり、2004年の3773億円とほぼ同じ水準に落ち着いたというわけだ。

つまり。

2005年の中で圧倒的にCDが売れてなかった1月〜3月の数字を抜き、CDが回復傾向に向かった4月以降(年度)で切ってしまうことであら不思議、CDの総生産金額を「上昇」に転じさせることができたのである。読売新聞にはグラフがあるが、これと通常レコ協が公開している「年」ごとの生産金額実績のグラフを比較すると、2001年あたりで数字が微妙に違うことがわかる。恐らく読売新聞の記事ではわざわざ「年度別」のグラフを起こしたのであろう。ご苦労なことです。落ち込んだ2005年1月〜3月は前年度に「負債」として押しつけることができて、CDが売れた4月以降のデータを抜き出すことで前年同期比を「上昇」に転じさせることができるわけだから、ちょっとした「数字のマジック」がここにあったというわけだ。

しかし、実のところ数字のマジックというほど大げさな話ではなく、前「年度」と比較したときにプラスに転じていることは事実である。統計を見ればわかるが、実際2003年以降落ち込みの度合いは低くなっていた。事実としてここ1〜2年で音楽CDの売上は下げ止まりの傾向があったのだ。レコ協の目論見的には2005年に数字をプラスに転じさせて「回復傾向にあるんだよ」というプロパガンダをしたかったのだろうが、それは残念ながらかなわなかった。だったら2006年の実績で前年より「上昇」に向かえばいいわけだが、それには1年待たなければならないし、今年の1月〜3月の状況を見ると果たして上昇に転じるかどうかも不透明だ。だが、音楽業界全体としては着うたフルが売れているし、iTMSが始まったことでようやくPC向け音楽配信の市場も立ち上がってきた。そんな中「CDの売上も回復しているんですよ」というアピールができないのはつらいし、このままではまた短絡的なメディアに「配信が伸びてCDが食われる」という浅い批評をされてしまう。で、年度で生産金額を切ってみたらわずか4%だけどプラスになるという結果が出た。そこで「これなら音楽配信で音楽需要が大きくなって結果CDの売上も伸びた! 配信はあくまでテンポラリに楽しむもので、『大多数の音楽ファンはやはり手元に残しておきたいのだよ』というストーリーを作れる! ラッキー!」みたいな感じになって、こういう大本営的発表をしたんだろうね。

2005年の各種統計データが公開されたのは3月8日で、あまりメディアで大々的に「7年連続でCDの売り上げが下がった」みたいなニュースが飛び交わなかったのでおかしいなーとは思ってたんだが、ここでこういうニュースとなるあたりで、なんとなく合点がいった。

まぁそのあたりはレコ協の広報宣伝戦略の話だから俺的にはどうでもいい。配信が盛り上がっているときにCDの売り上げも上昇に転じたという報道をさせることで、音楽業界全体が盛り上がっているような世論誘導・印象形成をすることもそれ自体は悪いことではないと思う。

しかし、俺が腹が立つのはここ。サンスポと読売の記事から引用する。

同協会では「消費者がネットで気軽に音楽に触れられるようになった結果、音楽CDに戻ってくる相乗効果があった」とみている。

日本レコード協会は「携帯電話などを通じた音楽のネット配信が普及したことで、利用者がアーティストの他の曲や歌詞カード、ジャケットを求めてCDなどを購入した」と分析。「今後もネット配信の拡大とともに生産額は増加する」と強気の見方をしている。

彼らの↑こういう物言いだ。

今まで自分たちに原盤使用料が入ってこないっていう理由で散々着メロを中心としたケータイ文化を憎み、さらにはPCで音楽を楽しむ音楽ファンを「違法コピーユーザー」と犯罪者扱いしてクソ以下の欠陥メディアであるCCCDをリリースし、そのことに対して何の反省も見せず、音楽配信サービスについてもまったく普及させる気を見せずに消費者がまったく使う気が起きないガチガチのDRMしかかけず、さらにはiTMSが入ってくるのをあからさまに妨害してきたような日本のレコード会社たちがどの口で「配信のおかげで音楽需要が喚起され、CDの売上上昇をもたらした」とか言えるんだと。

音楽配信やファイル交換ソフトが音楽需要を喚起して「音楽に戻ってきて、結果CDの売り上げが増える」なんて調査結果は米国はもちろん、日本だって2003年頃からいくらでも出てただろうに。そういうものには全部耳をふさいでCCCDリリースしたり、WinMXの個人ユーザーを提訴してきたようなレコード会社に今更「配信で気軽に音楽に触れられるようになったからCDに戻ってきた」とかそんなこと言って欲しくないね。そもそも昨年の生産額発表時に新聞などの一般メディアに対して「ネット経由の音楽配信の広がりなどでCD離れが進んだことが原因」とか「ネット配信など音楽を聴く手段が多様化し、CD離れが進んだ」とか今年と真逆のこと言ってるような協会だよ? 面の皮どんだけ厚いんだよっていう。まぁこの記事書いた記者の推測という可能性もあるけど、多分こういう記事の場合、発表資料とかそういうのからそのまま転記していることが多いのでレコ協が言ったんだと思う。
 
もっと言えば、そういう音楽需要の喚起には間違いなくiPodも貢献しているということだ。iPodは音楽ファンに自分の持っている音楽ライブラリを持ち歩く、シャッフルで聴かせるといったように新たなリスニング体験をもたらしたし、さらにアップルは消費者にとってハンドリングのしやすい音楽配信サービスであるiTMSでPC向け音楽配信サービスそのものの需要も上げてくれた。MoraなんてiTMSが入ってきた昨年8月以降、月間ダウンロード数が急速に伸びて、1月には前年の約3倍まで伸びてる(確か8月の時点では50万曲強だったはず)んだよ。これは間違いなくiTMS登場で一般消費者に音楽配信の敷居が低くなったことと無関係ではないし、「よくわからないけど最近テレビのニュース番組で『これからはネットで音楽を買う時代だ』みたいにやってたから、いい加減MDウォークマンじゃなくて新しいプレーヤーにしたいなぁ。じゃあビックカメラでもいくか。あーこれがiPodか。やっぱりおしゃれだなぁ。え、なになに? iPodじゃなくてソニーのウォークマンAの方がオススメ? iPodもウォークマンもやれることは一緒? どっちもネットで音楽買えるの? しかもソニーの方が値引率いい? うーんじゃあソニーにするか」みたいに騙さr……消費者が買わされた「ウォークマンA需要」が明らかにMoraのダウンロード数を押し上げた部分もあるわけで、そういうところまで含めていろいろ音楽業界に貢献してくれたiPodのことは一切言及せず、かたや私的録音補償金問題ではiPodから大金をせしめようとするわけね。いやはや大したダブルスタンダードですこと。

つーか、本気で配信がCD需要伸ばすとかあなたがた思ってないでしょ? 配信も伸ばしてCDも伸ばす具体策とか何も考えてないでしょ? それ本気で考えてるんだったら、いまだにクソCCCD続けてる東芝EMIにきちんと「協会」として指導してやめさせなよ。SMEにiTMSに楽曲出すよう促しなよ。SMEがMoraでATRAC3 128Kbps、210円で売ってる音源を、着うたフルとかDUO MUSIC STOREではHE-AAC 48Kbpsのクソ音質しかも420円っていう倍の値段にして不当に消費者から搾取してる現状を何とかしてよ。でも、そんなのできないよね。

上の段落に関連するどうでもいい余談を1つ。とある音楽業界のお偉いさんたちが一堂に会する規模の大きなパーティーに出席したことがあるんだけど、パーティー終わって帰る前にトイレでウンコしてたら、そこのトイレにお偉いさんっぽい人たちがたくさん入ってきておもしろいトイレトークが聞けたのね。彼らも酔っぱらってるから口が滑る滑る。曰く「音楽配信で売れてるのは本当の音楽じゃない!」「着うたとか買う奴の神経が信じられないよね」「我々はやはり本当の音楽を作って行かなきゃいけないし、そのためには配信なんかじゃなくてCDじゃないと!」とかどう見ても香ばしい発言のオンパレード。本当にありがとうございました>俺の腹具合。これ、一切作りのないマジ話だから。高級ホテルのトイレで一人ウンコしながらほくそ笑む俺。どんな構図だ。産業スパイがトイレでソーシャルエンジニアリングするってのは、いまだに有効な手段なんだなーと思ったよ。

話を戻そう。レコード協会が本当にやらなきゃいけないことは、こんなくだらない数字遊びじゃなくて、本気で配信とCD(パッケージ)が共存していくにはどうすればいいのか考えることだ。本気でやるつもりないんだったらずっとCDビジネスやってりゃいいし、私的録音補償金制度とか輸入権とか再販制度とかの既得権益にしがみついてりゃいいんじゃね? 良かったよね、しがみつくものがたくさんあって。でも、それってゆるやかに安楽死に向かっているだけかもよ。インディーズだって配信だって、これからは本当の意味で伸びていくしかない。そのとき、今のメジャーレコード会社は肝心のアーティスト達から頼りたくなる存在でいられるのかな? ふふふ。

| 音楽業界全般 | この記事のURI | Posted at 22時15分 |

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