2006年04月24日(月)

『「CD売上回復!」というストーリーを作りたいレコード会社たち』は悪質な印象操作だ について

ということでこちらのはてなダイヤリーの記事は、僕が書いた自作自演記事でした(音ハメだけ見てる方は分からないと思いますが、この週末こんな騒動があったのです)。思ったより即座にアクセスが伸びたので「旬」の内にネタばらしをしておきます。このまま何も説明しないのも不誠実だと思うのでなぜあの記事を書いたのか、背景を説明しておきましょう。


●前提
直接インスパイアされた記事は小寺信良さんが書かれた下記2つの記事です。このエントリーを読む場合、ちょっと長いですがまずこの2つのエントリーを熟読してください。その方がいろいろと考えるものが出てくると思います。

ブログにおける情報の重さ(ITmedia)
情報過多が作り出す「Level1飛空艇」症候群(ITmedia)


●動機と目的
以下の5つです。

「CD売上回復!」というストーリーを作りたいレコード会社たちを書いて、割といろいろなサイトで取り上げてもらって、反応とか見てたんですけど割とみんな好意的というか、納得、その通りみたいな意見がほとんどだったので、それに対して「結構偏った(意図的に偏らせて書いた)記事なのに、否定的な反応がないなー。ちょっとヤバいんじゃね?」と思ったので、カウンターが必要だと思った(その意味では、元々のエントリーを書いた時点ではこうしたちゃぶ台返し的なことをすることは一切想定していない)。

id:fromdusktildawnさんがはてなダイヤリーでやってることが面白そうだったので俺もやりたいと思った。しかしもちろん彼と俺ではたぶん本音をどう混じらせるかのスタンスは違うと思うので、これはあくまできっかけの1つでしかない。

・ウェブ界隈だとよく「メディアリテラシー」だとか「ポジショントーク」だとか、そういうものでよく語られがちですが、そういう言葉使うことで逆に思考停止に陥っちゃう人が散見されるのでそういうものに対して考えるきっかけがあるといいなと思った。

・まったく無名なブログが一切宣伝活動なしに有名になっていくというのは、昔は難しかったが今ははてなブックマークで3〜4人がクリップすればあとは表舞台に立つことができる。そこで注目されている記事に対して違う視点からケンカを売ったら宣伝なしでどれだけの速度で注目されるのか実験したかった。

・音ハメであの文章を書いた際に当然のことながら、いろいろな視点や考え方は自分の中にあって、それは実ははてなのサブアカで書いたことも含まれている。だが、その上であえていろいろなものを省いてわかりやすくしてエントリーとして出しているのだが、その一方でいろいろ分析できる能力や、音楽業界の事情などもある程度わかっているんですよというバランス感覚(笑)を読者の人に提示したかった。


●ブログ名について
この一覧の「このエントリーを含む日記」で拾いやすくするには、ブログ名に力がある方がいいと思いました。そこではてな界隈の人が好きな話題の「メディアリテラシー」を含むタイトルにしました。

otsuneさんがコメント欄で「もしタイトル通りメディアリテラシーの啓蒙という意味で記事を書いたのなら「はぁ? それはメタ視点のギャグですか?」という気もする」と指摘してくださいましたが、まさにその通り。さすがですね。


●作成者のプロフィールについて
「某シンクタンクでコンテンツ系の研究員をやっています」というのは、まぁ当然のことながら完全なネタです。ただ、俺自身は昨年「デジタルコンテンツ白書」の音楽業界の現状分析を一切煽りなしで書いたりもしているので、事実関係の指摘、認識などでそこそこの説得力は持たせることはできるだろうとは思っていました。まぁ、実際には最後無駄な煽りが増えて台無しになっちゃいましたが。

あとはプロフィールを一切記入しないで文章だけ書くよりも、プロフィールで「シンクタンクの研究員」と書くことで「この人の書くことに説得力がある」と思っちゃう人がどれだけいるのか確認するという意味ですね。またはポジショントークと書かれたことの関連性ということを考える、まさに「メディアリテラシー」を読者の人に突きつける意味でも、こういうプロフィールにしてみました。ここのところでもうちょっと早く「ネタ」だと気づいてくれる人がいたら良かったなーと思います。


●書いた内容について
基本的に音楽配信メモで書くことは、いろいろ計算尽くで書かれたものではありますが、7〜8割は俺個人の「本音」と思っていただいて結構です。

はてなの方で書いたことにどこまで本音が混じっているのかということはあえて伏せておきます。ただ、一言言っておくとはてなに書いたことで「津田氏」に対して思ったことはまったくのネタではなく、あそこに書いたことで本音が「ゼロ」ということはありません。そういうものを読者の人がそれぞれ想像していただくことが「メディアリテラシー」につながるのだと思います。

そして、音ハメに書いたこと、はてなに書いたことでこの問題に対する全ての事象をフォローしたわけでもありません。両方から僕の意思で意図的に省かれた「事実」もあります。

書く際に気をつけたのは、俺が普段書いている感じをできるだけ削ることです。otsuneさんに代表されるモヒカンの人たちや、徳保さんの書き方を参考にしたのですが、書いている内に俺自身が持っている天然の煽り体質がどんどん出てきてしまって、最後の方は冷静さを失い、かなり津田大介をDISる内容になってしまいました。その点はちょっと反省しています。

というか書いてる内にDISる方が面白くなってきちゃってさぁ! あいつの書いてること、書いてることは正論だけど書き方が腹立つんだよね(笑) まぁ冗談はさておき、最後まで冷静に突っ込んでいれば良かったのかもしれませんが、結果的に「洗脳合戦」のコントラストがはっきりした方がメディアリテラシーを理解する上では良かったのかもとか思ってます。

(追記)
はてブだとこのエントリに対して「ネタ」というタグがたくさん付けられてますが、これは「ネタ」ではありません。元記事、はてな、そしてこのエントリの3つ、小寺さんの記事2つ、それらプラス一連の記事に対するさまざまな反応全てをひっくるめて「1つのコンテンツ」なのです。ただ、こういうことは何度もやっても意味がないと思うので、「以後二度とこのような狂言はやらない」と宣言しておきます。



●コメント欄に対するお返事
>taroさん
「DRMの水準を緩くすることは当然のことながら違法コピーが増え、音楽CDの販売機会を失うことにつながりかねない」というのは、恐らくまだきちんと答えが出ていない問題です。調査会社などが行う調査結果でもまったく正反対の結果が出たこともありますし、DRMゆるめたことで短期的に見て回復したことが長期的に見ると落ち込んだ原因になった。またはそれとは逆の現象が起きることもあるでしょう。僕個人としては「DRMを必要以上にかけすぎれば消費者は(そのコンテンツに何らかのオルタナティブがある限り)、そうしたコンテンツにそっぽを向いてしまう」という考えはあります。もちろん「必要以上」の水準がどこなのか、というのは議論の余地がたくさん残されており、その議論を僕は今まで以上に進めるべきだと考えてます。

>ACDCさん
おっしゃる通りです。これこそがメディアリテラシーですね。

>jiroさん
僕は「音楽ライター」を「自称」したことは今まで一度もありません。音楽雑誌に書いたことはありますが。そもそもIT出版の世界から来た人間ですし。

「ネットウォッチ系のヲタ」という評価は個人の感覚なので甘んじてお受けしますが、「これまでにも、検証や裏づけなしに書いたエントリーで、何度問題を起こした」という事例が本人的には心当たりがないので、具体例を書いていただけると助かります。具体例書いていただくことでこれを読んだ人のメディアリテラシーも高まるでしょうし。

>otsuneさん
内容的には完全に見透かされていましたね。「後日「この前のはメディアリテラシーの重要性を訴える為の釣り記事でした」とネタバレするつもりでしたらゴメンナサイ」というコメントがなかったら、もうちょっとこのネタ寝かせておいたかもしれません。otsuneさんは「「実は私のこの記事もレッテルを貼っています。blogで書いてある事を鵜呑みにしないで自分で考えましょう」ぐらいのオチが欲しいところ。」とお書きになりましたが、このオチはotsuneさん的には満足行くものだったでしょうか。

>あほかさん
炎上は確かに見ていて楽しいですけど、炎上ばかり見てると冷静にコンテンツを見られる目を失うかもしれませんよ。

> Seymourさん
「メタ的な構造で読者に「考えさせる」ことはギャグでもなんでもなく有効な手段だと思いますが、そういう人に対してはそもそもメディアリテラシーを説く必要がないでしょうね。難しいなあ」というご指摘はとても的確ですね。そういう意味では僕もちょっと諦めている部分ありますし、散々昔からはてなブックマークのコメント一覧を非難していたんですけど、もう最近は「これはこれでアリだ」と肯定的な立場になるようになりました。今回のことは僕にとって意味があるかどうかという価値判断で動いてます。

>ECHIGOYAさん
レコード会社の中にいる人で「iPodが売れて業界が活性化すればその分コピーによる損失が増える」と考えている人は少なくないですよ。また、日本の場合、欧米とは違いCDレンタルの制度もある分、損失ということも考えなければならないでしょう。もちろんCDレンタルは合法的なサービスですが、通常売られているCDと比べて、私的複製前提のレンタル代がCDリッピングで簡便かつ大量に行える現状が90年代後半から生まれてきたときに、果たして現在の「価格」「著作権利用料」で適正なのかという問題は横たわっています。

>inumashさん
コメント、エントリーともにありがとうございます。消費者の考えもコンテンツ側が見る必要がある、というのはまったくもって正しいと思いますが、しかし消費者に対してどこまで譲歩すればいいのか、ということがコンテンツ側にとってなかなかわかりにくい世の中になっているのでは、と僕なんかは思います。このエントリーに対してリンクして付けられている様々なコメントを見て僕はその思いを強くしました。

そして、音楽CDについて下げ止まりが来ているのは客観的な事実として存在しています。日本レコード協会のデータはインディーズは含まれていませんが、昨年はDef Techのアルバムがミリオンを突破しました。もし、そうしたインディーズの数字を含めていれば2005年で切っても数字は「回復」してたかもしれませんね。それに加えて着うた、iTMS以降音楽配信サービスは伸びてますから、全体的な音楽マーケットは拡大しつつある転換期に入ったと僕は思います。が、もちろん音楽ビジネスは多分に水物的要素を含んでいます。これ以上消費者を敵に回すようなことをしたら自滅していく可能性は十分ありますし、ロングテールと直結するコアユーザーの存在を音楽業界がどう見ているかでしょうね。


●付録
僕の考えを多分一番正直に綴ったものは2004年秋に出した拙著『だれが「音楽」を殺すのか?』のあとがきだと思ってます。この本、結局1回増刷しただけで普通の本屋さんだとなかなか買えなくなっているので、とりあえずあとがきだけ転載しておこうと思います。あとがき読んで興味持った方がおられましたらぜひAmazonで買ってください

●『だれが「音楽」を殺すのか?』 あとがき
本書は「音楽配信メモ」という自分のサイトに書いた記事や、雑誌記事の取材で音楽業界関係者に聞いた事実、仲良くなった音楽業界関係者から聞いた裏話、インターネット上から拾ってきた情報など、さまざまなものをミックスして作ったものだ。

偉そうにいろいろなことを書いているが、実はあまり自分の意見にこだわりがあるわけではなかったりする。「現状のCCCDは絶対に認められない」とか「日本でも聴き放題型の音楽配信始めろ」とかそういう譲れない部分以外は、読んでくださった人がどういう感想を持とうが知ったこっちゃないという感じだ。

というのも、この本を発売した主な目的は「音楽業界に対する俺の意見を聞いてくれ!」ということではないからだ。そうではなく、今の音楽業界を取り巻く「論点」がいかに多いかということをあぶり出したかったのだ。そして本書に「価値」があるとするなら、まさにその部分にあると思っている。

2002年1月に「音楽配信メモ」というサイトを開設して3年弱。その間、音楽業界のニュースに対してネットユーザーや音楽ファンがどのような反応をするのか、ずっとウォッチしてきた。その中でいつも気になっていたのが、あまりにも「ある事実や背景を知らずに、脊髄反射的に短絡なコメントをしている人が多い」ということだ。

批判したいヤツはすればいい。だけど、きちんとした知識や事実認識なしに的外れなコメントしても、それは自己満足のガス抜きにしかならないと思う。今の音楽業界のことをクソだと思ってて、その状況を何とか変えたいなら、ニュースの背景にどういう問題が横たわっているのか、きちんと勉強するべきだ。踏まえておくべき事実や認識が多ければ多いほど、音楽業界に関する議論は実りあるものになるはずだ。できるだけ多様な視点、認識を持ち、それを最大限活用して議論すれば、新たなソリューションが生まれるかもしれない。こうした話し合いから何かを産み出していく作業が今の音楽業界には圧倒的に足りないんじゃないかと思う。

本の体裁上、ほぼすべてのコラムで自分がどう考えているかということは書いたつもりだ。しかし、僕の中では反対意見を認めないということは絶対にないし、音楽業界側の言い分もよく理解できるという問題も多い。もちろん、自分の書いたことには責任を取るつもりだが「どっちの意見も正しいよな」と揺れながら書いたものもある。あとがきに至って、大変言い訳臭くて申し訳ないのだが、これが僕の偽らざる本音だ。

CCCD問題1つ取ってみても、消費者、音楽ファンとしての自分はCCCDを許すことはできないけど、一方でクリエイター(著者)としての自分は、こういうもので何らかの制約をかけることも食べていくためには仕方ないのかなと思ったりもする。そうなると結局、問題の結論は個々の読者に委ねるしかない。その中で、読者が多様な視点を持つようになり、自分の立場だけでなく相手の立場になってものを考えられるようになれば、ミュージシャン、レコード会社、小売店、リスナーすべてが幸せになるベターな結論が見つかるかもしれないじゃないか。というか、そうなって欲しい。

お互い譲歩するところは譲歩して、譲れない部分は譲らず、徹底的に議論すればいいのだ。今は残念ながらラウドなのがレコード会社ばかりで、肝心のミュージシャンやリスナーの声があまりにも小さい。この小さな声を大きくするためにこの本がちょっとでも役に立てば著者としてはこれほどうれしいことはない。

この本では全体的に違法コピーについて甘めの見解を示している(それどころか、自分が昔ナプスターを使って違法ダウンロードしていましたなんてことまで書いてますな)。これは、僕がファイル交換ソフトとか違法コピーについて、肯定派でもなく否定派でもなく、違法コピーが存在するのは「必然」だとする立場だからだ。どんなに規制しても違法コピーを根絶することはできない。だったら、違法コピー側に「行って」しまった人をどうすれば、こっち側に「戻せる」のかということに頭を使って、労力をかけるほうが建設的でしょ、ということだ。

こういうことを言ってると、よくお叱りを受ける。「お前は自分の著作物が違法コピーされて、それでも平気でいられるのか?」と。

実は結構平気だ。ぶっちゃければ、単行本が大した収入にならないということもあるが、ガチガチのコピーガードをかけて少数の人にしか読まれないくらいなら、コピーされまくってでも、多くの人が読んでくれた方が著者としてはうれしい。まぁ、できれば読んでくれた上で印税が発生すればベター、くらいに思っている。

それにしても、音楽業界はおもしろい。普通の常識では考えられないことがたくさん起きるし、「へ?」と思わず聞き返してしまう裏事情を聞かされることも少なくない。こんなことを書いてしまうのは、著者としてルール違反かもしれないが、いろいろな人に話を聞いたり取材する上で、本書で「書けない」ことがたくさん出てきた。いくら正論をぶちかましても、その論理とはまったく別のところの力学で物事が決まったりするのだから、それは本当にどうしようもない。

でも、音楽業界を取材していくうちに、ろくでもない事情や人だけじゃなく、本当に純粋な音楽好きがたくさんいるってこともわかった。そりゃどんな業界でも清濁両面を併せ持ってるものだが、音楽業界はそのコントラストが非常に激しい。でも、だからこそおもしろいし、きちんと純粋に音楽が好きでやっている人に対してメッセージを発信することは意味があると思っている。

だらだらとあとがきを書いているうちに、CCCDに対して強きの姿勢を崩さなかった某国内のレコード会社が「CCCDを少なくする方向に動く」という情報が入ってきた。もしかしたら数年後にはCCCDなんて下らないものが全部なくなってるかもしれない。そうなるといいなと思うし、この本で書かれているさまざまな懸念が全部きれいな形で解決されて欲しいとも思う。

10年後くらいにこの本を読んだ人が「あの頃の音楽業界はこんなくだらないことで悩んでいたんだね」と笑いながら感想を言えることを願って。

こんな感じです。ここには俺の98%くらいの本音があるかなー。

というわけで、いろいろとお騒がせしてすみませんでした。真面目に僕を擁護してくれるエントリーを書いてくださったid:inumashさん(id:keithmentholに聞いてみたところ、5/17の勉強会は参加するそうです!)、id:kowagariさん(「メディアリテラシーを考える上で非常に意味のある話だと思った」という指摘はこの一連の流れの本質を突いていると思います)、本当にありがとうございました。

こんなふざけたネタをやって混乱してしまった読者の皆様にもお詫びします。ごめんなさい。

最後に僕がメディアリテラシーを考える上でもっとも参考にしている書籍があるので、それをAmazonリンクしておきます(お詫びの意味でアソシエイトIDは抜かします)。みなさん機会があったらぜひ読んでみてください。

ASIN:4759222197

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