2006年06月01日(木)

「放送と通信の融合」は結局骨抜きになりそうな感じで

文化庁,IPマルチキャストは地デジの再送信のみ有線放送と扱う(ITpro)
IP放送の著作権処理、CATV並みに…文化審小委(YOMIURI ONLINE)
IP放送を「有線放送」扱いに 権利処理を簡略化(Sankei Web)
有線同様に許諾簡素化へ(神戸新聞Web News)
IP放送 番組多様化に道(YOMIURI ONLINE)
放送・通信「融合」へ一歩 文化審議会報告案(asahi.com)

このあたりの話題。2月の時点でこういう記事を書いたわけだけど、まぁ予定調和というか見事に骨抜きな感じになりましたな。2月にこの方針が出た時点でiTMSや日本の動画配信サービスに与える影響をMac People誌の連載(5月号)書いたので、そこから該当部分を抜粋転載しよう。

iPodではなく、iTMS、特に動画販売を巡る法的状況も今年に入って大きく変わろうとしてきている。前述の「知的財産推進計画2005」をまとめた政府の知的財産戦略本部がインターネットを通じたテレビ番組の配信、いわゆる「ネット放送」を通常の「放送」と同じ枠組みにして、著作権手続きの簡素化が必要という提言をまとめたからだ。

なぜ今、ここでこうした著作権法の改革が行われようとしているのか。その背景にはネット放送(動画配信)が許認可事業である「放送」と異なり、現在は「通信」扱いということがある。「放送」であれば、番組を作る際に必要になるBGMや俳優のパブリシティー権、脚本などを自由に利用して、あとからそれを「事後報告」して放送後に使用料を払えばいいのだが、「通信」の場合、個別にそれぞれの著作権者に対して事前に利用許諾申請をしなければならない。USENの「GyaO」のコンテンツにオリジナル制作のものが多いのもこうした事情があるのだ。

だが、ネットにおける動画ストリーミングを「放送」扱いにすることで、著作者に事前許可を求めることなく、さまざまな番組を制作できるようになる。iTMSの動画販売サービスの場合、ストリーミングではなく個別ダウンロードなので、直接この著作権法改正で影響を受けるわけではない。しかし、この改正により急速にネットにおける著作物利用料金のルール作りが進むというところに重要なポイントがあるのだ。実は日本の場合、ネットで動画を販売する際の著作権使用料がまだきちんとした形で決まっていない。決まっていない理由は非常にシンプル。動画の場合、音楽、俳優、声優、脚本といったさまざまな権利者が関わるため、それらの関連団体がそれぞれ「著作権料をこれだけよこせ」と主張するため、なかなか決まらないのだ。

こうした議論は各団体間で'02年頃から継続的に行われていたが、ようやく昨年「暫定合意」ができたばかりという有様。「これではいつまでたっても知財(コンテンツ)ビジネスが進まない」ということで、業を煮やした知財戦略本部がこうした提言をしたのだろう。

つまり、著作権法が変わり、GyaOのような動画配信サービスが「放送」扱いになることで、動画配信における権利処理ルールの整備が期待される、というわけだ。権利処理ルールが整備されることで、日本におけるiTMSの動画コンテンツも増える可能性がある。ただし、音楽や俳優、脚本家などの団体はこうした方針に反対を表明しており、著作権法が本当にこのような形で改正されるかどうかはまだ先行き不透明だ。

こんな感じ。まぁ、2月時点から地デジ移行の難視聴対策として、IPマルチキャスト放送だけでもとりあえず「放送」扱いにする、という感触はあったので、今回提案された報告案は予想の範囲内というか、予定調和以外の何者でもないですな。せめてセットトップボックスへ直接配信するオンデマンド放送とか、放送局が自ら行うオンデマンド配信とかまで「放送」扱いにしたらまた違った展開もあったかなーと思うけど「同時再送信(テレビの放送と同じ時間帯にIPを通じて放送する)」場合のみ、放送扱いにするっていうんじゃ、まぁほとんどのオンデマンド系動画配信の権利処理ルールには影響与えそうもないね。「とりあえず数年は是々非々でやっていきましょうや」とかそんなお茶を濁した感じで行くに違いない。

6月1日付けの読売新聞の社説はこの判断に肯定的だ。

[IP放送]「視聴者の不自由は消えないが」(YOMIURI ONLINE)

いきなり冒頭からふるっている。

「録画しなくても見たい時に見たいテレビ番組を楽しめるようになる」と期待していた向きはガッカリかもしれない。しかし、出演者の権利などを考えれば、妥当な内容ではないか。

「出演者の権利などを考えれば、妥当な内容ではないか」という部分は、「うさんくさいネットのやつらに勝手に僕たちコンテンツクリエイターが心血注いで作ったコンテンツを勝手に許可なく利用されたくないんだよねー」と、社説を書いた人の本音に置き換えて読むと理解が早くなるだろう。

まぁ軽いジャブの冗談はさておき、2段落目から「技術的には、このようなサービスは十分に可能だ。番組の流通促進と制作の活性化を狙い、政府の知的財産戦略本部などが、IP放送の著作権処理を大幅に簡素化するよう求めている」という部分までは、この問題の背景に何が横たわっているのかをコンパクトかつわかりやすく解説しているので、この問題に興味があるけどよくわからないという人は読んでおくことをオススメする。

んで、最後の部分。

しかし、出演者などの権利の強化は世界的な潮流だ。文化庁は、著作権者らの許可を得ずに、過去の番組を自由に呼び出すサービスは、国際条約に違反する恐れがある、と指摘する。

過去の番組は、放送事業者が著作権者らと協議して、適正な使用料を決めるしかない。新たに制作する番組は、IP放送での利用を考慮した契約が増えるはずだ。放送の「特権」を強引に拡大しなくても、放送と通信の融合は進む。

出た! 著作権問題を語る際の伝家の宝刀「グローバルスタンダード(世界的な潮流)」。通信と放送に関しての対応はほんとに各国でバラバラだが、例えば私的録音補償金問題1つとっても、少なくとも欧州は単純に「強化」の方向に向かっているわけではなく、DRMなり配信サービスの整備とバーターで緩める方針に転換している(今後転換する予定)国もあるそうだ。

また、権利者団体も「事後でいいから報酬をもらえればいい」という「報酬請求権」にこだわる団体もあれば、ガチガチの事前許諾を重視する我らが音楽業界(レコード会社)様みたいなところもある。そういうのを全部引っくるめて権利強化がグローバルスタンダードだよというのは乱暴に過ぎるし、もっと言えば、権利者団体は実は権利者(アーティスト/クリエイター)の考えを本当に反映してるのかって問題もあるわけでね。

あと、「過去の番組を自由に呼び出すサービスは〜」の部分だが、過去のアーカイブの権利処理については別枠の議論にすべきだと俺は思う。実際問題、ほとんど俺は過去のテレビ番組のアーカイブ化については半分以上諦めているところがあるのだが(それほどまでに権利処理は複雑化しているし、中にはいわゆる芸能界的システムや、ブラックな背景があったりすることで配信できないものもある)、少なくとも今後配信する番組についてはきちんとルールを決めて「放送」の簡素化された権利処理で行えばいいわけで(もっとも、現状の放送の権利処理がベストな方法であるとは俺も思っていない。特にデジタル化時代を迎える今だからこそ、取り漏らしのないザル徴収でないシステムを構築すべきだろう。テレビ局はムダ金たくさんあるんだしさ)、その問題についてはそれこそ本当の意味での「国際的な潮流」に合わせて、日本的なやり方で決めていけばいいんじゃねーの? と思う。

しかし、本質的な話をしてしまえば、本当にこの予定調和的結論でいいの? という部分もある。消費者の感覚からすれば、好きな時間帯に好きなコンテンツを見られるというところがネットの動画配信の良いところなわけで、YouTubeやGyaOの例を出すまでもなく、それはもはや「当たり前」の感覚だ。こうした「ネットの良さ」に背を向けて限定的にしか権利処理を楽にしないのではいつまでたってもオンデマンド配信におもしろい「合法」コンテンツが登場しないわけでね。

結局のところ、「放送と通信の融合」の議論でもっとも置き去りにされているのは消費者であり、利用者の視点なんだよね。今は多くの人がHDD/DVDレコーダー使って好きな時間帯にCMカットして楽しんでいるわけで、これも1つの「オンデマンド」だ。もはやライブで見ることに意味があるコンテンツなんてそれこそニュース番組と生のスポーツとめざにゅ〜に出ている杉崎美香様の癒される笑顔ぐらいじゃないだろうか。

そういう視点とか議論とか、まともな利用者感覚持っている人がこういう議論に参加しなけりゃ、結局骨抜きの著作権法改正にしかならないし、いつまで経っても「合法」的な動画配信は普及しないんじゃないの? ま、YouTubeが潰れなきゃそれでいいって話もあるけどさ。

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