2006年12月19日(火)

オリコンのプレスリリースに対する疑問と今後の争点

一晩経っていろいろな情報が出てきて、いろいろ冷静になってきた。今更いうのもなんだが、前のエントリは煽り過ぎの面もあった(まぁ、撤回しようとかは思わないけど)ので、オリコンが今日出したプレスリリースをライターとして冷静に見てみようと思う。

事実誤認に基づく弊社への名誉毀損について(ORICON STYLE)

まず気になるのはこのポイント。

また、烏賀陽氏は、長年に亘り、明らかな事実誤認に基づき、弊社のランキングの信用性が低いかのごとき発言を続けたことが背景にあります。

ここでいう「長年」というのは要するにAERA2003年2月3日号と、今年のサイゾー4月号の2つの記事の間に長い時間があった、ということを意味しているのだろうか。この2つの間には3年間の時間があるが、烏賀陽さんがそこかしこで、「オリコンのランキングは操作できる」と言いふらしていた、という事実をオリコン側がつかんでいるのだろうか。基本的に俺が知ってる烏賀陽さんは公式サイトこそ持っているものの、足で情報を稼ぐ昔気質のジャーナリストだ。この3年間で俺は何度も烏賀陽さんに会っているし、一緒にトークイベントをやったりもしたが、そうした場で彼が「オリコンランキングの信頼性は低い」などと触れ回っているのを聞いたことがない。というのも、前のエントリにも書いたし、小野島さんも書いてくれたが、「オリコンのランキングは業界関係者の間ではある程度操作が入り込む余地があり、少なくとも以前はその仕組みを突いた売り上げ増加活動がレコード会社によって行われていたようだ」的なことが「共通理解」としてあったので、あえてそんな話をする必要がなかったのだ。むろん、そうした「常識」は他ならぬ複数の音楽業界関係者からもたらされたもので、烏賀陽さんから聞いたことで俺が「オリコンのランキングの信用性は低い」と思ったわけではない。というか、「ある程度」と強調したように、オリコンのランキングそのものがまったくのデタラメなんてことは俺だって思っていないし、そういう情報をもたらしてくれた音楽業界関係者たちも思っていないのだ。あくまでランキングにある程度の「バッファー」があるということを指摘しているだけなのである。話を戻すと、この引用部を読むと、烏賀陽さんは「長年に亘り」ずっとオリコンランキングの信頼性を損ねるような行動言動を取ってきたように見えるが、少なくとも俺が確認している限り(音楽業界にまつわるさまざまな雑誌記事を調べるのも俺の仕事のうちだ)、烏賀陽さんがそうしたことをやっていたようには思えない。それこそせいぜいこのAERAとサイゾーと「Jポップとは何か?」ぐらいじゃないか? そもそも烏賀陽さんは音楽専門のジャーナリストではないし、書籍を中心に活動されていたので、そうなると彼には「長年にわたって言いふらす」行為そのものがなかったのではないか、と思える。むろん言及されるオリコン側にとっては3年間に3つも違うメディアで言及されたことが「明らかな事実誤認に基づき、弊社のランキングの信用性が低いかのごとき発言を続けた」と思うのかもしれないが、俺の個人的な感覚ではこの程度では烏賀陽さんが「ランキングの信用性が低いかのごとき発言を続けた」とは思えない。


(1)「オリコンは調査方法をほとんど明らかにしていない」(烏賀陽氏発言)

 弊社は、調査方法について昭和43年のランキング開始時以来明示しています。またその調査店についても平成15年7月以降、弊社のWEBサイト、雑誌等のメディアにおいて開示しています(3,020店)。さらに、調査方法については、他社メディアの取材にも応じています。

ここについてはある種の争点になるかな、とも思った。それは「ほとんど」という部分の解釈だ。オリコンは確かに現在ウェブ上でランキングの調査方法を公開している。調査協力店の名前もリストになっており、これだけ見れば「ほとんど明らかにしていない」は烏賀陽さんの「言い過ぎ」かもしれない。もっともこの調査方法も情報は多いように思うが、「推定ランキング」なのにそれを推定するための計算式やアイテムを合算する際の「弊社が定めた基準」、調査店がどのような形でオリコンに協力しているのかが明らかにされていないわけで、オリコンはなぜここを公開しないのだろうかという疑問は残る。チャートに経済的信頼性の意味を求めるある種の人からすれば、この程度のデータ公開では「ほとんど公開していない」も同然かもしれない。俺はそれを判断できる立場にはないので、そのあたりは裁判で争うしかないだろう。

またもう1つのポイントは、烏賀陽さんのコメントで「ほとんど」としている部分は、編集部の創作である可能性もあるということだ。烏賀陽さんはコメント内容を事前にゲラで確認してOKを出しているが、そこには細かいさまざまなニュアンスがそぎ落とされている。そして、この程度の表現であればまさか個人宛の訴訟が起こされる、という「油断」があったのかもしれない。そのことに対して「危機意識がなさすぎる」という人もいるかもしれないが、俺がもし烏賀陽さんの立場だったら細かいニュアンスが取られても「まぁこの程度だったらいいか」とOKを出していたように思う。

内容証明郵便で確認されているように、烏賀陽さんの責任で出版されているコメントではあるが、やはりここに必要以上の責任を負わせてしまうことの怖さを俺は感じる。


(2)「オリコンは予約枚数をもカウントに入れている」(烏賀陽氏発言)

昭和43年のランキングの開始時から今まで予約枚数をカウントしたことはありません。

「オリコンが予約枚数もカウントする」ということについては、実は俺も聞いたことがなかった。探偵ファイルのような「自社買い」に関してはよく聞くことであったのだが。ここはオリコン側がはっきりと「昭和43年のランキングの開始時から今まで予約枚数をカウントしたことはありません」と断言している以上、本当にそうなのかもしれない。これがもし事実と違うのであれば、検証不足でコメントを出してしまった烏賀陽さんの落ち度だろう。しかし、実際のところこれが事実なのかどうかは(今のところ)オリコン側が「予約はカウントしてないよ」ということしかソースがない状況だ。

検証についていえば、3年前のAERAの記事で、

ただ、「オリコンの数字はある程度操作ができる」という噂はこれまでにもありました。小生も「同社発売の雑誌に広告を買った」「集計先レコード店から買い取りをする」等々と、「オリコン対策費」の存在を示唆するレコード会社員の話を耳にしたことがありますが、検証は不可能でした。

という部分があるが、まさにここが争点になるのかもしれない。検証できなかったことを伝聞レベルの形でメディアに載せてしまうことの問題だろう。しかし、これを封じられてしまうと、実際のところジャーナリストは原稿を書く際にかなりの制約がかかってしまう部分がある。「検証作業をきちんとやっても、明白な証拠があげられなかった。しかし、状況証拠でほぼ確実に、そうした事実はあるだろう」と思うような場合、リスクを背負って伝聞を記事内に入れることもあるからだ。今回はその「リスクを背負って」の部分が最大化してしまった、といえるのかもしれない。

このあたりは俺も複雑な思いがある。烏賀陽さんのやり方もわかるし、オリコンが(もし本当に事実無根なことが書かれているなら)怒る気持ちもわかるからだ。

烏賀陽氏は、弊社からの平成18年6月23日付け内容証明郵便の中での「サイゾーの記事のとおり発言ないし指摘をされているのでしょうか」という問いに対し、平成18年6月30日付けのFAXにて「自分が電話でサイゾー編集者の質問に答え、編集者が発言を文章にまとめました。まとめたコメントはメールで自分に打ち返され、修正・編集を加え、若干の意見交換ののち掲載の形にまとめられました」(同氏からのFAX原文)と回答してきています。このように、烏賀陽氏は、発言は自分が責任をもって行ったものと明言されています。

ここの部分は知らなかった。何の事前の文句もなしにいきなり訴訟なのかと思ったら、一応内容証明で確認はきていたと。しかし、それにしても責任の所在を明確化するための内容証明と見ることもでき、この内容証明郵便に話し合いで解決しようという意思は感じられない。穿ってみれば烏賀陽さん個人をはなからねらい打ちするための内容証明郵便だったとも考えられる。

烏賀陽氏は、同様の発言を他のメディアでも行っており、同氏の発言の社会的影響力は決して小さいものではありません。

同様の発言を他のメディアでも行っており、とするならもう少し「証拠」を出すべきではないだろうか。少なくとも訴状にはアエラとサイゾーしかなかった。

社会的信用とは長年の不断の努力によって成されるものと確信しています。ジャーナリズムの名の下に、基本的な事実確認も行わず、弊社の長年の努力によって蓄積された信用・名誉が傷つけ、損なわれることを看過することはできないことからやむを得ず提訴に及んだ次第です。
 この度の提訴はあくまで烏賀陽氏によって毀損された弊社の名誉を回復するための措置であることをご理解ください。

本当にあの程度の記事でオリコンの社会的信用が傷つけられ、それで5000万円もの損害が出たのだろうか。オリコンの主張は一部理解できるところはあるが、しかしそれにしても5000万円という金額がどのような計算に基づいて算出されたのか、そのあたりがこのプレスリリースでは明らかになっていない。

いずれにせよ、オリコンがプレスリリースを出したことで、このことは公然の事実としてさまざまな場所で議論できるようになった。無視せず迅速にプレスリリースを出したことは評価されるべきだろう。

今後この問題は司法の場に行くのだから、事実誤認、名誉毀損が成立するか、という点について徹底的に議論すべきだ。

あと、サイゾー編集部の問題というのもあるが、まだコメントをもらっていないのでサイゾー編集部の責任については別エントリとして起こそうと思う。

| 音楽業界全般 | この記事のURI | Posted at 20時08分 |

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