2006年12月25日(月)

オリコン訴訟問題の現状の詳細なまとめ

烏賀陽さんのメールが届いてから1週間。ITmediaなど一部の報道が出たり、その間にオリコンからリリースが出たり、社長名義のコメントが出たり、いろいろありました。新聞報道系のメディアもこの件について既に動いているところもあるそうで、来週には一般報道レベルでもこの問題が知られていくことになるでしょう。(→毎日新聞の記事出ましたね。なぜかmixiニュースの方と微妙に記事内容が違う。こっちは朝刊? 烏賀陽さんのコメントが長い)

この問題についていろいろ調べていく過程で、今感じている僕の感想はこんな感じです。

「とにかく複雑な論点が絡み合っていて、どうにも解きほぐすことが難しい」

なので、今回はこのエントリより、さらに冷静にこの問題にどのような論点が含まれているのか、僕なりに整理して皆さんに提示したいと思います。問題を整理していく過程で、オリコン側、そしてサイゾー側、また烏賀陽さんにも非があることが分かってきたところもあります。だからこそこの問題は複雑で、かつ不幸なことだと思いますし、はっきりいえば、この訴訟をオリコンが行うことで、勝つにしろ負けるにしろ「誰も得をしない」という状況がそこにあると思います。不毛ですね。

ということで、以下論点ごとに問題となっているところを整理していきたいと思います。


●オリコンは何を問題にしているのか?

(1)訴状や社長コメントなどを見る限り、オリコンが問題にしているのは以下の2つ。「予約も含めてカウントして集計しているということは事実無根」「オリコンは集計方法を明らかにしており、記事中のほとんど明らかにしていないというのは事実無根」。これに対して音楽業界人から得た「チャートは操作可能だ」と伝聞を記事内に盛り込むことで、それらがそも事実であるかのような誘導をしている。これがオリコンに対する「誹謗中傷」「名誉毀損」に当たるということ。

→「事実無根」なのか、「チャートの操作は可能なのか」という2点については別項にて検証する


(2)なぜ、誹謗中傷にあたるのか? それは彼らが「音楽ヒットチャート関連事業」を中核とするビジネスモデルの企業であるからだ。そのため、チャートの信頼性を損ねるような言説がメディアに(彼らが「事実無根」とする要因を元にした記事が)掲載されるようなことは、事業全体に重大な損失を与える。

→これはオリコン側の主張が100%正しいと仮定するならその通りだろう。


(3)だから烏賀陽氏個人に対して信頼性を損ねると多大な損失を招くため、当社の年間売上高57億円の1%に満たない数字を基準に算定し、5000万円の損害賠償訴訟を起こした。

→オリコンのチャートの信頼性や操作可能か、ということではなくこの問題の本質はすべてここに凝縮されている。果たして5000万円という金額は妥当なのか、なぜサイゾー編集部ではなく、烏賀陽氏個人宛に訴訟を起こしたのか、そして「我々の真意はお金ではありません。個人攻撃でもなく、ただ事実誤認の訂正を求める目的」で訴訟を起こしたのならば、なぜ出版社と著者に対する記事訂正・謝罪文要請、もしくは両者間による十分な事実確認の話し合いというプロセスを踏まずに(このことについては内容証明郵便の項で別途検証する)、5000万円で提訴したのかという問題が残る。お金が目的じゃないのに、具体的に信頼性を損ねると多大な損失を招くため、当社の年間売上高57億円の1%に満たない数字を基準に算定して損害賠償を求める請求をしているとメディアに答えているのは、矛盾があるように思える。「謝罪と訂正」が本当の目的であるなら、5000万円の訴訟という「手段」が妥当であったのかということだ。


●オリコンの調査方法の信頼性はどうなのか

(1)大きな問題として横たわっているのは「今の問題」なのか「昔の問題」なのかということである。

→オリコンの調査方法は以前と現在では変わっている。現在はウェブ上で調査方法と調査対象店を公開している。これによれば、現在は「操作」のきかないPOSデータとネット通販の売上データをもとに作成していることがわかる。だが、POSシステムが普及する前は、以前は調査対象店から電話やFAXで報告される売上データを元に集計していた。どちらにも共通しているのはこれは「標本調査」であるということである。つまり、調査対象店から上がってくる「基礎データ」に、オリコンが独自に作った「計算方法」を掛け合わせることで、最終的な「推計」の「売上枚数」が算出されるということだ。これは予約問題にもつながってくる複雑な論点なので、予約問題の項目を参照のこと。

ここでポイントになるのは調査対象店からオリコンに上がってくる「基礎データ」の信頼性がどうなのか、という部分だ。POS時代になった現在はそこに操作が入り込む余地はない。しかしかつてはFAXや電話による人為的な集計であり、ここに操作が入り込む余地があった。実際、ここの部分で「操作」が行われていたとする音楽業界関係者の発言は複数聞かれる。1つの争点となっている「予約」についても、恐らく問題となるのは「昔の時代」の話なのであろう。音楽業界関係者に取材した結果は別エントリを起こしたので、このエントリを最後まで読んだあと、読んでもらいたい。さらにいえば、基礎データは現在操作する余地はなくなっていても、肝心の「どのような計算式で数字を掛け合わせると、オリコンが発表する数値になるか」ということが明らかになっていないのである。つまり、昔と現在では「操作できる余地」は明らかに少なくなったとはいえ、現在でも「操作できる余地」が残っているということは、実際に彼らがやっているかどうかはともかく事実として踏まえておかねばならないだろう。


(2)オリコンが発表する集計方法は「統計データとして信頼に値するものなのか」という問題

→烏賀陽氏自身が例の記事でコメントを行うときに話した内容とも関連するが、信頼される統計調査というものは何なのかを調べたらこのようなページが見つかった。これによれば、統計調査の区分は「全数調査」(調査の対象となる構成単位をすべて調べる調査)と「標本調査」(母集団の構成単位を一部抜き出して調査し,それによって,母集団全体の様子を推定する調査)に分かれる。オリコン(プラネット、サウンドスキャンも同じ)の調査の場合、日本にあるレコード店全部のデータをまとめているわけではないので、「全数調査」ではない。つまり「標本調査」である。そして、標本抽出の方法には「無作為抽出法」と「有意抽出法」に大別されるが、いわゆる統計調査は無作為抽出により調査されたものをいうとのことだ。オリコンの場合、現在サイトで調査店を公開しているので、どこのお店で買えばそれがランキングに反映されるかどうかということがわかっている。つまり、「有意抽出法」にあたる。本来「統計」として、信頼性の高いデータであるには、方法として「無作為抽出法」でなければならないはずだ。つまり、オリコンからしたら「我々は調査店まで開示しているクリアーな統計データなのだ」と言いたいのだろうが、実際は逆で、統計データとしての信頼性を高めたいのならば、「どこのお店で調査しているのか」という情報は明らかにしてはいけないのだ。

もちろん「有意抽出法」でも、まったく信頼性がないかといえばそれは別の議論になる。音楽業界人に取材した結果の中には、「実売データと照らし合わせても非常に近いデータだ」という意見(A氏)もあり、「有意抽出法」であれば信頼できない、という話でもないだろう。実際、全体に対する標本数が少ない視聴率調査(無作為抽出法でも、当然誤差は出るので、その誤差がどれだけあるのかということが信頼性をはかる基準になる)よりも、よりもPOSに基づく売上実数の数理集積を元にしたオリコンのデータの方が信頼性が高いとする向きもあり、俺も個人的な感覚だけで話をすれば前のエントリに書いた通り、視聴率調査よりもオリコンのデータの方が信頼性は高いと思う。ただし、一般論としては統計調査が信頼を得るためには、オリコンはもう少し細かい集計方法を明らかにしなければならないような気がする。

(追記)
この点に関して下記の指摘メールを頂きました。これも信頼性に関する1つの論点になるところで、具体例を交えた解説は非常に参考になりました。ありがとうございます。ただ、僕はこうした意見も耳にするので、オリコンの調査の信頼性を高めるのにはどっちの方式の方が良いのか、というところの判断は保留させて頂きます。

オリコンが発表する集計方法は「統計データとして信頼に値するものなのか」について

今のフレームだと、「値します」。12/25の記事で、無作為抽出と有意抽出でかかれていることは、教科書通りのことですね。

オリコンが調べたいのは、売上データです。ならば、彼らのやっている方法は十分妥当です。

なぜか。

売上ランキングでは、個票が大事だからです。

無作為抽出しても、回答してくれなくてはなんの意味もありません。

例えば、ビールのランキングを出したいとします。一生懸命地方の酒屋さんをランダムサンプリングしました。でも、セブンイレブン、ダイエーからは回答がありませんでした。そのような調査結果に意味があるでしょうか?

業界全体をみて、売上上位の会社からは絶対回収しなくてはいけない。それがランキング調査なのです。有意抽出でなくてはいけないのです。調査フレームが安定していて、その結果を時系列で見ることにこそランキングの意味合いはあります。

> 実際は逆で、統計データとしての信頼性を高めたいのならば、
> 「どこのお店で調査しているのか」という情報は明らかに
> してはいけないのだ。

というのは真逆です。あのリストで日本全体の売上のどの程度が網羅されているか、そのことこそが重要なのです。オリコンに限らず、世の中で売上ランキングを出している調査の調査方法を調べてみてください。どこでも、必ず明示しているはずです。
例:http://bcnranking.jp/bcn/07-00000142.html

無作為抽出が必要なのは、売上ではなく、「日本全体のレコード店の店長の意見を知りたい」ときです。
(追記終わり)

もっともオリコンがデータを売っているのは一般人ではなく、それを参考に商品開発や番組作り、マーケティングを行う「企業」だ。つまり、オリコンの主なビジネスモデルはBtoBであり、買う企業側が「指標」として有効だと思って買っているのなら、内容の信頼性はある意味で必要以上に問わなくてもいいという議論もあるだろう。この点オリコンのビジネスモデルとも関わってくるので別項「オリコンのビジネスモデルと「訴権の濫用」問題」にてまた触れる。

烏賀陽氏は朝日新聞社在職時代、世論調査に関わったこともあるそうだ。そうした立場で「一般論」として「信頼性の高い統計データとは、標本数の公開や標本誤差の許容範囲、抽出方法など、細かく集計方法が明らかになったものである」とサイゾー編集部の取材に答え、そのときに「オリコンのデータが信頼できないと言っているわけじゃない。だからオリコンのデータは信頼性がないというような書き方はやめてくれ」と編集部員に言ったという。ではなぜあのようなコメント記事になったのか? ここは別項「そもそものサイゾー記事の質と編集部の責任」で検証する。


(3)オリコンは本当に開始時以来集計方法を明示していたのかという問題

事実誤認に基づく弊社への名誉毀損についてというプレスリリースでは「調査方法について昭和43年のランキング開始時以来明示しています。またその調査店についても平成15年7月以降、弊社のWEBサイト、雑誌等のメディアにおいて開示しています(3,020店)」と書かれている。「調査店を開示することイコール統計の信頼性を高める」わけではないことは、統計の専門家からしたら常識だろうが、問題は平成15年7月以前の調査方法の「明示」がどのような形で行われていたか、ということだ。法人向けデータベースシステム「真大樹」で公開されているとしても、それ以前は業界誌の「ORIGINAL CONFIDENCE」の方で公開されていた、ということなんだろうか。一部の人にしかアクセスできないような情報公開であった場合、「昭和43年のランキング開始時以来明示してきた」という表現は議論が分かれるのではないか。

あと気になるのは調査方法に関して「さらに、調査方法については、他社メディアの取材にも応じています」という部分。これも内容証明のところの話と関わるが、烏賀陽氏に話を聞いたところ、サイゾー記事が出たあと、烏賀陽氏は「オリコンチャートの問題についてはこれまであまり深く掘って取材したことがなかった。(追記)これは俺の勘違いで、03年2月3日のアエラに合わせて、烏賀陽氏はその前後オリコンに何度か取材をかけているそうだ。FAXでのやり取りも残っていているそうだが、肝心の質問には広報は答えたり、はぐらかしたりという感じだったようだ。前の書き方では烏賀陽氏はオリコンのことを何も知らずにコメントしたようにも見えるので、少なくともオリコン本体にもきちんと取材しようとしたことがある、というように訂正しておく。(追記終わり)(筆者註:これは別項「そもそものサイゾー記事の質と編集部の責任」にも関わる問題なので、そちらも参照されたし)。ならば、まず正面突破でオリコンに取材を申し込み、この問題について明らかにしよう」と思い、「ランキングの集計方法について取材させてください」とオリコン広報部に連絡したそうだ。

オリコン広報部は「ええっ。烏賀陽さんですか……。ちょっとお待ちください。あとで連絡します」とその場では電話を切り、その後、電話連絡ではなくサイゾー編集部に内容証明が送られてきた。ということだ。これが烏賀陽氏がサイトにアップした経緯の「過去に取材拒否もあり」という部分に当たる。この話も俺は烏賀陽氏から聞いた話なので、もしかしかたらオリコン側は「違う」と主張するかもしれない。いずれにせよ、烏賀陽氏とオリコン側両者しかこの点は事実関係は知らない、ということだ。そして、恐らくこのやり取りは裁判における1つの大きな争点になるだろう。なので、これ以上の論評は控えておく。ただ、「他社メディアの取材に応じています」という部分については、疑問の余地があるというところは指摘しておきたい。


(4)サイゾー記事内の「ほとんど」という表現の問題

→日本語の解釈の問題になるが、「ほとんど明らかにしていない」というコメントは「明らかにしている部分もある」ということである。結局のところPOSから出てくる実売データにオリコンがブラックボックスとして持っている「係数」に対して、どれだけの重要性を見るか、というところにかかってくる。そして前述した通りこの「係数」に関してはオリコンは明らかにしていない(ここについては、オリコン社のビジネスモデルに関わる問題でもある。個人的には、企業側が納得ずくで購入しているのならば、このブラックボックスをむやみに明らかにする必要はないと思う)。しかし、この「係数」こそがチャートの信頼性をはかる本質だ、と考える人からみたら、オリコンの集計方法公開は「ほとんど明らかにされていない」と言っても決して過言ではないだろう。「まったく明らかにされていない」ではないのだ。が、もちろん「係数」は重要ではない。「基礎データ」を集めるものを調査店まで明らかに公開しているのだが、「ほとんど公開している」と考える人もいるだろうし、オリコン側としたらそういう認識を持っているのだろう。

まさにこのあたりには「言葉の解釈」という問題と、さらにはチャートの信頼性は何によって担保されるのか、という大きな問題が横たわっている。


(5)オリコンのチャートは「出荷」ベースだったことはあるのか
→これは最初のエントリで俺も考えなしに「音楽業界内で言われているのは『出荷枚数と消化率から売り上げを推計している』ということだ。これに対し、プラネットやサウンドスキャンは実売ベースのランキングと言われている」と書いてしまったが、これはミスリードをもたらすものだったかもしれない。少なくとも現在はPOSデータを使っている以上実売がベースになっている可能性が「高い」わけで、その意味で現在のオリコンの「推計」方法に出荷枚数が含まれているのかどうかに関しては、きちんとした検証が必要だろう。

しかし、まったく無根拠というわけではなく「オリコンのランキングは出荷ベースだから、プラネットやサウンドスキャンでミリオンにいかないものがミリオンになる」的な話は、それこそ数え切れないほど複数の音楽業界関係者から聞いていた話である。今回いろいろ取材して、チャートや小売店の現場に近い人に話を聞くと、いや「出荷数だけでランキング決まるなんてないですよ」的な冷静な反応が返ってくることが多かったので、このへん、オリコンがずっと「ブラックボックス」にしておいたことが、やがて業界関係者の中で「オリコンは出荷ベースのランキングだから操作可能」的な噂(常識)になり、一人歩きしていった部分があるんじゃないか、とも思える。この部分はさらなる検証が必要だろう。


●果たしてオリコンのチャートは「予約枚数」もカウントしたデータに基づくものなのか

(1)訴状とオリコン側から出された2つのプレスリリースを見る限り、もっとも彼らが訴えたいところはここである

→今回の裁判におけるポイントはいくつもあるが、争点となるもっとも重要なポイントは間違いなくここであろう。訴状にしても、プレスリリースにしても、書いてある文章をよく読んでいくと、オリコン側は自分たちにとって「痛くないところ」である「予約」の部分を武器に、烏賀陽氏の言っていることを「事実無根」ということにしたい、という思惑が見えてくる。前述した通り、具体論の話になると実は彼らは困る(オリコンチャートの信頼性というところは、解釈次第でどうとでも争える)ので、あえて具体的なポイントである「予約」というところに的を絞って烏賀陽氏を提訴したのではないか。彼らにとっては「予約を枚数に入れていない」ということは歴然たる事実であり、そこに絶対的な自信があるから「勝訴できる」と踏んで、「これに基づいた事実誤認でそれが結果的にオリコンへの誹謗中傷になっている」という論を組み立てているように思える。


(2)「予約」が含まれるという話の真偽は?

→まず踏まえておかなければならないのは、別項「オリコンの調査方法の信頼性はどうなのか」の(1)で指摘した「今の問題」なのか「過去の問題」なのか、というところで密接に関わってくる。まずは「過去」の話からしよう。過去、POSがなかった時代は調査店からオリコンへの報告は電話かFAXにて行われていた。これはどういうことかというと、ぶっちゃけていえば、ある程度の誤差の範囲内で「レコード店」が数字を水増しできる余地がたくさんあった、ということを意味する。水増しのために「予約」という手法が使われた可能性はゼロではない。古いオリコンの体制を知る業界関係者に話を聞くと、いろいろな情報がかえってきたが、概ね「しっかりやっていた店もあれば、適当にやっていた店もあるし、レコード会社から金銭的な便宜を受けて報告枚数を増やしていた店もある」というものだった。ここでまた、論点が複雑化するのだが、オリコンにとっては、レコード店から上がってる「売上」に予約枚数が含まれていようといまいとどうでも良いことである。それはあくまで名目上レコード店が「自発的」(であったかどうか、という論点はまた別項で触れる)にやったことであるからだ。店や担当者によっても変わっただろうし、おかしな数字が出てきたときに「あそこは予約枚数も含めて報告してるから」的な疑問が出てもおかしくはないだろう。そのあたりは音楽業界人への取材も読んでもらいたい。いろいろな人に話を聞いた結果、このオリコンのカラ予約を使ってランキングを上げる手法について聞くと

「あったよ(過去形であることがポイント)」
「実質的に予約で順位上げることができるよ」
「今はやってないよ」
「そもそもそんな話聞いたことないよ」

という4種類の反応があった。業界関係者の中でも意見が割れるという意味では、これは非常に微妙な問題なのだと思う。烏賀陽氏にも「ソースはどこ?」という話を聞いたが、それはそれで上記で述べたような(完全な証拠とするには)微妙なソースであった。が、これは現状烏賀陽氏が俺に話せる部分も限定的であろうことを考えると、結論を出しにくい。


(3)昔はともかく現在は予約はカウントされないのでは?

→これも手法の問題というか、状況によって変わる。オリコンのチャートが現在は実売ベースになっているというのはよく聞く話であるが、最終的には「推計」で数字を作っていることは事実だ。で、この話になるとオリコンのこの推計方法、ブラックボックスに足を踏み入れざるを得なくなる。プラネットなどはPOSデータから上がってる数字に係数をかける、というある種単純な方法を取っているが、オリコンはそのあたりどうなっているのだろうか。現在のオリコンチャートはプラネットやサウンドスキャンと同じように完全にPOSを通した実売データと消化率(実際に売れた数量を入荷した商品数量で割ったもの)で計算しているのだろうか。

以下仮定の話になるが、この「推計」のやり方が、メーカー出荷枚数をベースにして、サンプル店での消化率を調査し、出荷枚数×消化率を計算する方式でやっているのだとすれば、調査対象店で集中的な買いを入れて、そこでの消化率を上げれば、チャート上昇させることは可能である(これは別項「オリコンの調査方法の信頼性はどうなのか」でも述べた)。そして、このベースに出荷枚数があるとしたら(あくまでこれは仮定の話なので注意)、レコード会社が出荷枚数を増やせば、それに伴って推定実売枚数も増える仕組みになるわけだ。

ここでポイントとなるのは、どうやってレコード会社の出荷枚数を増やすかということを考えたときに、「予約」というものも絡んでくる可能性がある、ということだ。具体的にいえばあるレコード会社がアーティストの新譜を出すときに、調査対象店であるA店が50枚買い取ってくれそうだ、ということがわかっった。そのときに、オーダー締切直前にレコード会社がバイト雇うなり、自分でお店行くなりして10枚その新譜の予約をする。そうするとA店は予約分も考慮して60枚、もしくは現場で話題になっているという効果も見越して70枚や80枚などレコード会社に対してオーダーする数を増やすかもしれない。これは「予約を数に入れる」という単純な図式ではないが、予約を利用して初回出荷数を増やす(=チャートを意図的に上昇させる)ことが可能である、ということを意味する。ここまですべて仮定の話だが、もしこうしたことが現実に行われているのなら「予約枚数もカウントしている」という表現は、事実とは違ったとして「事実無根」とまで言い切るのは厳しいのではないかとも思える。実際にかつては予約枚数もカウントされる(レコード店がそうしていてもオリコン側にそれを防ぐ術がなかった)ような仕組みで運営したいたわけで、それも含めればもっと「無根」と言い切るのはつらいのではないか。ただ、もちろんどちらの場合にしろ予約枚数の問題は「オリコン側に責任がある」とするのは難しいだろう。レコード会社や一部の熱狂的ファンやチャートシステムの穴を逆手に取っておもしろそうな「祭」に参加した人に、その「原因」はあるからだ(むろん、そのことを知りつつ、システム上整っていない部分をオリコン側が意図的に放置している可能性もあり、このことの是非もあるわけだが、これもまた別の議論になるだろう)。

この問題、予約が一番の重要な論点なのであるが、そこを深く掘っていくと、「チャート操作」には「オリコンが関与したもの」と「レコード会社がシステム上の不備を突いて操作したもので、オリコンは関与していないもの」の2種類があるということが大きなポイントであることがわかる。これについては別項「チャート操作は可能なのか」で詳述する。


●チャートは操作可能なのか

(1)なぜオリコンの出す数字はPOS中心のプラネット、サウンドスキャンと異なるケースがあるのか

→これについてはまず先にプラネット、サウンドスキャンのチャートがどれだけ実態を反映したものなのか、という議論もしなければならない。音楽業界人へ取材した際、A氏はプラネット、(特に)サウンドスキャンのチャートの信頼性に対して疑問を呈していた。オリコンは自ら「老舗」と謳うように、数十年かけて作ってきた独自の信頼すべき集計方法を持っている。現場感覚に基づいて実態に即したチャートにするために、POSデータだけでは図れないさまざまな要素をチャートに組み込んでいるわけだろうから、その意味ではプラネット、サウンドスキャンと差異があるのは当然のことである。つまり、「チャートに差異があること」自体はオリコンチャートの信頼性を否定する根拠にはならないのだ。プラネット、サウンドスキャンのチャートが「絶対的指標」でない限り、差異はあって当然である。そして、もっといえばチャートが出荷するレコード会社や、一部の消費者によって「操作可能」なのは、オリコンだけに限らないのである。「タワー渋谷店のインディチャート○位」が欲しくて予約を入れるインディーレーベルのオーナーもいるし、Amazonのランキングを上げたくて午前中に自分の本をまとめ買いしてランキングを上げる著者だっている。世の中で公開されている多くの「チャート」は、誰が主体になるか、どこまで操作できるのか、という問題はあるが、ある程度は「恣意的な操作が可能」なのである。チャートが「メディア」的性格を強く有している以上、それは認められるべき(仕方ない)ものだと理解すべきだ。逆にいえば、踊らされる消費者の側も「チャートなんてそんな程度のものだよ」的に捉えておくことが重要なのだろう。そもそもチャートなんてあんま気にしない、という人の方がほとんどだろうが。


(2)チャートを操作する「主体」の問題

→今まで書いてきたように、一口に「チャート操作」といっても、チャートシステムの「穴」を突いてランキングを上げようとする「操作」(もしかしたらこれは「操作」というより「上昇を意図した行為」と呼んだ方が良いのかもしれない)と、オリコンとレコード会社が結託して意図的に集計結果から導き出された「チャート」を書き換える「操作」の2種類がある。極端なことをいえば、前者の操作はあくまでレコード会社や消費者が「勝手にやったこと」であって、そうした行為があったところでオリコンに責任はない。オリコンが今回の訴訟で強気の姿勢を取っているのは、前者については自分たちが責任に問われることをないことを知っているからだろう。

そして、予約問題を中心にして烏賀陽氏を責めているのも、同じ理由であると思われる。オリコンかすれば現在はPOSデータを基礎データにしているのだから、レコード店から上がってくる数字は疑いようがない。そして予約についてもPOSは「通った(売り上げた)もの」しか記録されないから、カラ予約はすべて排除される。そして、POS以前のFAX集計のときにカラ予約で数字が水増しされてオリコンに報告されていたとしても、それは「かつてのことで現在のことではない」ということに加え、「レコード店が勝手にやったこと」であるから、オリコン側はそもそも「関知しないことです」と言うことができる。


(3)烏賀陽氏の「コメント」の責任は?

→オリコンがそもそも「関知しないことです」と、ある種の強弁が行えるここの部分は烏賀陽氏の「コメント」と大きく結びついている。俺もいろいろと取材をしていく中で、この予約問題だけが争点になるなら、烏賀陽氏はかなり厳しい立場に追い込まれたんじゃないかと思っている。どう転んでもオリコン側は「予約が数に含まれる」ということを「事実無根」と言える状況が整っているからだ。これを覆すには、烏賀陽氏が「オリコンが予約も数に入れている」ということの、確実な「証拠」を出さなければならないだろう。

ただし、実際に裁判となったときには、「予約枚数がカウントに含まれるのかどうか」という事実だけが争点になるわけではない。そもそも烏賀陽氏はこの点について「現在事実関係」を明らかにすべく、オリコン側に取材を申し込んで断られたという経緯があるからだ(もちろん、烏賀陽氏が僕に対して言ってくれたこのことが真実であるならば、ではあるが)。著者が事実を確認しようと正当な手続きを踏んでいるのにもかかわらずそれを拒否し、著者の記事(今回の場合、文責は編集部にある「コメント者」でしかないわけだが)を「事実無根」と主張することが、裁判においてどのような影響をもたらすのかは、1つの大きなポイントとなる可能性が高い。そして、このあたりのことはオリコン側、烏賀陽氏側双方の「裁判戦略」に大きく関わってくるだろう。


●そもそものサイゾー記事の質と編集部の責任

※この項に書かれることは基本的に烏賀陽氏から聞いた内容を元に起こしてます。聞いた内容が「事実」と異なっていた場合、まったく展開が異なることがあることをあらかじめご留意いただければ幸いです。また、僕の現在の「気分」としては、「烏賀陽氏にも非があるポイントはあるが、それでもオリコンが高額訴訟に踏み切ったことに対しては非常に強い抵抗感を持っている」という状況です。いろいろなものを飲み込んだ上で、烏賀陽氏を基本的には支援するつもりなので、その点読者の方は差し引いて考えていただければ幸いです。


(1)そもそものサイゾーの記事の「質」はどうだったのか?

最初のエントリで引用した、サイゾー2006年4月号の記事をバックナンバーのページで見ると、このような内容が書かれている。ワイド特集〈ジャニーズタレント〉「ジャニヲタかく語りき、ジャニタレの真の姿とは?」という、ワイド特集の中の1つの記事だ。引用した部分を見てもらえればわかると思うが、オリコンのチャートでジャニーズが1位になることが多いことをネタに、ジャニーズを揶揄しよう、という執筆者の意図が見える。ただ、それこそ「事実無根」で揶揄するわけにはいかないから、音楽業界に詳しいジャーナリストである烏賀陽氏が記事に箔を付ける意味で選ばれたのであろう。変な話、ここで電話取材の対象は烏賀陽氏ではなく、津田大介でも良かったはずだ。識者のコメントと後述するずさんな「チャートのおかしさの指摘」で適当に構成された、まぁ言葉は悪くなってしまうが、「ページの埋め草」的な程度の低い記事である。「チャート操作している」的な話にまとめたいのなら、確たる証拠もなくこういう記事を書くべきではなかった。オリコンが見たときに腹を立てて、何らかの抗議をしてくる可能性だって十分予見できたはずだ。そして、この問題の本質だが、記事の文責はサイゾー編集部の編集部員であった。


(2)チャート操作を指摘するときの集計週がずれていた?

MUSIC ROOMというブログのエントリがわかりやすいが、サイゾーの記事の

試しに、06年2月の、オリコンチャートとPOSデータで集計を取っているサウンドスキャンを例に、ジャニーズタレントの週刊ランキングを比較してみた。2月7-13日の週では、タッキー&翼の「VENUS」(週間販売枚数45954枚)は、オリコンシングルチャート2位だが、2月6-12日週のサウンドスキャンでは、15位(週間販売枚数13573枚)とふるわない。そのほか、TOKIO「Mr.Traveling Man」の順位もそれぞれ、オリコン初登場第1位(2月14-20日)、サウンドスキャン第31位(2月13-19日)と、大きく異なる。確かに他の所属事務所のアーティストと比較して順位に差があるようだ。

という部分は、どうやら比較した週が単に1週間ずれているため、オリコンサウンドスキャンで大きな差が出ているのでは、という指摘が出ている。週がずれているというのもお粗末だが、それ以上にこのブログの著者ダイス氏や、業界関係者A氏が指摘しているように、サウンドスキャンとオリコンのジャニーズ関連の順位の差は、チャートの信頼性云々の話よりも、同一タイトルで同一商品とみなせるものに関しては、メディアの違いを問わず「すべて」合算して集計を行っているオリコンと、品番別にランキングを集計するサウンドスキャンの集計方法の違いによるものが大きいのだ。複数商品を同時購入するのがデフォルトになってるジャニーズファンの行動(最近のジャニーズのシングルは初回限定盤はCD+DVDで、CDには2曲くらいにして、通常盤はCDのみだが初回限定版には含まれないトラックが含まれるので、ファンはどちらも買わなければならない)によるものが大きい。実際サウンドスキャンのこの週のランキングをチェックしてみると、ソメイヨシノ/ ENDLICHERI☆ENDLICHERI(堂本剛)の初回限定盤が1位、通常盤が6位に入っていることがわかる。初回限定盤は5万7733枚で、通常盤が3万4332枚であるから、恐らく初回盤も潤沢に供給するであろうジャニーズの場合、通常盤の購入者はほとんどが初回限定盤との同時購入組であることが予想される。単純な数字だけで見れば約6割、少なく見積もっても3〜5割のファンが同時購入しているのだろう。本来ならば、オリコンの「ジャニーズがらみのチャートのおかしさ」を指摘するなら、オリコンのランキングにはそういう特性があることを踏まえた上で、同じ時期に発売された「ジャニーズ以外」のアーティストのオリコンとサウンドスキャンの「違い」を検証し、それらのアーティストよりもジャニーズが「優遇」されていることを客観的なデータとして出すべきだった。またはオリコン内部から「ブラックボックス」である推計方法を入手してきて、それを白日の下に晒し、その上でおかしいことを明白な証拠として出さなければ「ジャーナリズム」としてはNGだっただろう。そして、これらの記事の質の低さについて烏賀陽氏は責任はない。単に巻き込まれただけだ。本来ならば、この記事の質が低いことが原因で訴訟が起きるのならば、その原因は他ならぬサイゾー編集部(もしくは書いた記者)が取るというのが「筋」であろう。


(3)烏賀陽氏のコメント編集の問題

→実際の記事を読むと、烏賀陽氏が「わずか20行」とコメントしているように、内容的にそれほど際どいことをコメントしているようには思えない。オリコンからしたら、予約のところがカチンと来たのだろうが、それであれば編集部に事実誤認の訂正と謝罪を求めれば済む話である。そこで済めば、よくある雑誌記事に対するクレーム→謝罪で終わったはずだ。

そしてさらに重要なことは(烏賀陽氏の話を信じる限り)。サイゾーから電話取材でコメントを求められたとき、烏賀陽氏は「一般論」として統計データの話をして、「オリコンのチャートのことを言っているわけじゃない」ということを編集部の記者に念押ししたそうだ。ところがゲラが上がってくるとこのような内容になってきており、烏賀陽氏も編集部員に文句を言ったそうだが「時間的に校了が迫っていて大幅な修正は難しい」とか「文字数が少ない関係で微妙なニュアンスを出すのも限りがある」とかそういう理由で「これでいかせてくれ」と要望され、烏賀陽氏もしぶしぶそれを了承したという経緯があるそうだ。

個人的にはここがまさにポイントで(さっきからポイントいっぱいあって読みにくいよね。ごめんね!)、なんで烏賀陽氏はOKを出してしまったんだろうか、脇が甘いと責められても仕方ないよなと思う反面、元新聞記者で最初のエントリで書いた通り、限られた字数でコメントを入れて処理しなきゃいけない記者の苦労もわかる烏賀陽氏の「人の良さ」が、最悪の形でここに出てしまったのだなぁと嘆息してしまうのだ。人によっては、こういう脇の甘さ、人の良さを評して「ジャーナリストとしては致命的」と言うのかもしれないが、俺は人間的には烏賀陽氏みたいな人が好きだし、信頼できる。ただ、現状そういう烏賀陽氏の「迂闊さ」が、オリコンから訴訟される原因になっており、さらにはネットメディアでこういう問題を巻き込んでいくときに悪い方向に出ている面も否めない。愛・蔵太さんが感じているような危惧はまさにそのようなものの典型だろう。

しかし、これは断言するが、烏賀陽氏は「自分に都合に良い情報を小出しにしてネット世論を操作してやろう」なんて意図はまったくない。むしろそういう部分があるとしたら俺の方だろう(笑……えない)。冗談はともかく、このあたりは烏賀陽氏が迂闊だったとはいえ、基本、サイゾー編集部員が質の低い記事を適当なコメントででっちあげたことに問題があるのだ。

実は8月、俺のところにもサイゾー編集部から電話取材があって、コメントをした。内容は「CM音楽と音楽業界でどんな癒着があって、音楽出版社はどんなひどいことをしているのか」ということだった。俺は話を聞いたとき、「これはかなりクリティカルな内容の取材になる」と判断し、電話口のコメントはかなり注意して話した。編集部の人は恐らく「テレビ局系の音楽出版社はアーティストから搾取しまくりでひどいですよはっはっは」的なゴシップコメントを期待していたのだろうが、最初から最後まで一般論に終始するコメントにしたので(良くも悪くも、一部を除けば音楽出版社の仕事は地味だ。そして、物事は全部そうだが、彼らが今までやってきたことには功もあれば罪もある。一部の典型的なネガティブな事例だけを取り出して音楽出版社全部、CMタイアップなどを否定するような文脈で使われるのは勘弁という感じだった)、最終的に上がってきたゲラの俺のコメントは非常にマイルドなものであった。

しかし、あのとき調子に乗って自分の近いところでひどい音楽出版社の事例をたまたま聞くことができて、それを得意げにサイゾーに話していたら、それこそ俺のところにも訴状が来ていたのかもしれない。

終わった話だから仕方ないが、サイゾー編集部はどうしてもジャニーズとオリコンはできていて、チャート操作しているという文脈で記事にしたかったのなら、烏賀陽氏の名前は出さずに「音楽業界関係者はこう語る」と匿名で記事にしておけば良かったのだ。そうしたら、オリコン側からしたらたかが「サイゾーの与太記事」、で済んだかも知れない。

最終的にGOを出したのは烏賀陽氏ではあるが、烏賀陽氏だけにその責任を100%負わせるのはあまりにも酷だ。少なくともサイゾー編集部もこの記事に対して50%は責任を負わねばなるまい。


(4)烏賀陽氏の社会的影響力は?

→これは非常に失礼な話になるが、オリコン側が再三再四主張するこの記事による「風評被害」というのはどれだけのものなのかということがある。サイゾーなんてせいぜいが実売数万部の雑誌だし、「Jポップとは何か」にしたって10万部を超えるベストセラーになったなんて話は聞かない。せいぜい2万部くらいだろう。あとは烏賀陽氏個人の「知名度」がどれだけあるか、ということだ。俺は頻繁にテレビなど、露出度の高いメディアに出ているわけじゃない烏賀陽氏の知名度は、現時点ではあまりない(失礼!)と思う。そして、烏賀陽氏本人が発言しているように彼がオリコンについて書いた記事は「アエラ2003年2月3日号」だけである。コメントしたサイゾーと含めるとメディアでこのことが出たのは2つだけだ(「Jポップとは何か」にはオリコンの話は出てこないそうだ)。以前のエントリにも書いたが、オリコンが「烏賀陽氏は、長年に亘り、明らかな事実誤認に基づき、弊社のランキングの信用性が低いかのごとき発言を続けたことが背景にあります」というのなら、きちんとそのことをオリコン側が「証拠」として明らかにした方がいいだろう。ここも裁判における1つの争点になるはずだ。


(5)5000万円の妥当性

→これはあちこちで言われているが、本当にこの金額は妥当なのかという疑問は常に残る。ただ、オリコンは上場企業であり、企業の評判が落ちて株価が落ちれば、数億円では済まないレベルの「被害」が起きる。そして、オリコンの中核事業が自らの「チャート」にあるのならば、それを否定するような言論に対して断固闘うということは、企業防衛の観点から見れば正しい。しかし、それを踏まえたとしても、なぜコメントした烏賀陽氏ねらい打ちだったのか、なぜ5000万円の被害が出たと言えるのか、なぜインフォバーン社に対して訂正要求を出さずに直接烏賀陽氏ねらい打ちで内容証明を出して、その後話し合う態度を見せずに訴訟に踏み切ったのか。さまざまな疑問は残されたままだ。前項の「烏賀陽氏個人の影響力がどれくらいあったのか」という問題も絡み、やはり5000万円という金額の妥当性は多くの議論の余地を残しているように思う。具体的に「被害を受けた」というなら、サイゾーのあの記事を見て「それまで音楽番組のチャート表示にオリコンを使っていたテレビ番組がプラネットに変わりました」とか、「スポーツ新聞に掲載されるランキングがオリコンからプラネットになってしまいました」とか、そういう具体的な「被害」を出すべきなんじゃないか。「あの記事以降それが何十件もあるんです。チャートの貸し出し費用は毎月○○万円でそれが○件あったから5000万円の被害であります」という言い方をすれば、それは誰でもわかる経済的な「被害」であろう。

でも多分違うよね? あのサイゾーの記事を見て現在のオリコンのデータ使わせてもらっている顧客が「オリコンのデータは信頼性ないからやめよう」なんて思わないもん。みんな納得ずくでオリコンのデータ使ってるでしょ。つまりは、サイゾーのあの記事は「無視して問題ないレベル」の記事だったってことだ。要するに、いろいろな意味で5000万円の根拠が希薄なのだ。


●内容証明問題

(1)内容証明はいつ、何がきっかけで来たのか

→6月にサイゾー編集部に届いた内容証明郵便は俺も見せてもらった。スキャンまではしているが、裁判とのからみもあるのでアップするのは控えることにする。ただ、内容について簡単に書いておくと、「そもそもあの記事を作成するにあたり、烏賀陽氏は本当にあの趣旨の発言、指摘をしたのかということ。そして本当に発言しているなら「オリコンの数字が操作可能で統計学的な信用度が低い」とする根拠をお答えください、という質問と回答を求めるものだった。

これに対して烏賀陽氏は「ジャニーズとオリコンの関係のことはよくわからない」と答えたところ、編集部から「一般論で構わない」ということを言われ、コメントしたそうだ。そしてまとめたコメント部分はメールで烏賀陽氏に打ち返され、修正・編集を加え、若干の意見交換ののち、掲載の形にまとめられたという趣旨の返信をしていた。

ちなみにこれも、この内容証明郵便が来た時点でサイゾー編集部と烏賀陽氏の間で、一種の揉め事になったそうだ(烏賀陽氏からすれば、言いたいことの趣旨をねじまげられてコメント掲載され、それが原因で内容証明が送られてきたのだから当然だろう。ただ、もちろんそれは本人が掲載時にきちんと名前を出して掲載することを断っていれば防げた問題ではあるが)。このあたりはサイゾー編集部にも言い分はあるだろうから、烏賀陽氏からそのように聞いているという事実を記しておくだけにしたい。

そして、先ほどの「取材拒否」の話と関連するが、この内容証明郵便は、烏賀陽氏がサイゾーの記事をきっかけに、「そういえばオリコンのチャートのことをきちんと調べなくてはいけないな」と思って、オリコンに取材を申し込んだ際に、取材の応諾の代わりにサイゾー編集部に届いたものである。取材に対して内容証明で答えた時点で、烏賀陽氏はオリコンにとって「危険人物」と認定されていたのかもしれないが、このあたりのやり取りはいささか不条理なものを感じざるを得ない。烏賀陽氏に文句があるなら堂々と取材を受けて「お前のあの記事はこことここが間違っている。謝罪しろ」と言えばいいじゃん、と俺なんかは思うのだが、なぜオリコンは内容証明を出すことにこだわったのだろうか。それとも烏賀陽氏がまだ語っていないオリコンとのいざこざがあるのだろうか。

内容証明だが、烏賀陽氏からオリコンに対して返信した内容の末尾に「今回の件に関しまして、更なるご質問等ございましたら、サイゾ一編集部ならびに鳥賀陽弘道宛にご指摘いただければ幸いです。何卒よろしくお願い申し上げます」という文があった。少なくとも烏賀陽氏には(取材を申し込んだぐらいなわけだから当たり前だが)オリコン側と「対話」しようという意思はあったということだ。


(2)内容証明で本人のコメントであることを認めたため、個人対象もやむなし?

→内容証明に対する返答を読む限り、烏賀陽氏は(微妙な表現ではあるが)、サイゾー編集部との連帯責任的な部分を臭わせつつ、自分の発言であることを認めている。オリコンの提訴理由が「烏賀陽はオリコンのチャートの信頼性を損ねる記事や言動を繰り返していた」ところにあるのなら、内容証明でそれを確認して訴訟に踏み切るというプロセスはまったくもって正しい、というか想定内の出来事といってもいいだろう。

しかし、前述したように烏賀陽氏が本当に「繰り返していたのか」という問題もあるし、サイゾーの記事がオリコンへもたらすネガティブな印象は、烏賀陽氏のコメントよりもサイゾー編集部員が作ったあの「地の文」にあるということを忘れてはならない。ここまで烏賀陽氏個人をねらい打ちするのはなぜか? 今回の記事でサイゾー編集部のことは一切眼中になし、というのが不可解なのである。


(3)本当に責任を取るべき人間は誰か

→さて、問題のサイゾー編集部で記事を書いた人間はどうしているか。これは凄いオチがあって、あの記事を作成後インフォバーン社から退職してしまったそうなのである。おいおいおいおい、って感じなのだが、そうなったときに、この記事の責任は誰が取るべきなのか。もっとも彼が在職中であったとしても、これは編集部・会社として責任を取らねばならない話だろうから、このことは論点としては重要な話ではないのかもしれないが、腰砕けするような「事実」ではあった。


●オリコンのビジネスモデルと「訴権の濫用」問題

(1)オリコンのビジネスモデルの根幹はBtoB

→彼らが売っているものはチャート情報だ。雑誌ビジネスもやってはいるが、採算ベースではないと聞く。それに対する信頼性が損なわれれば、会社としての存亡に関わるという危機感は、当たり前のものとして理解できる。そして、こういう訴訟を起こすことにより、ブログや一般消費者から白眼視されることは、恐らくある程度は予想していたはずだ。しかしそれでもこの訴訟に踏み切った背景には、BtoCビジネスよりもBtoBビジネスが根幹であるという彼らのビジネスモデルがあるような気がする。すごく極端な話をすれば、彼らは消費者からどう思われようが、メインのビジネスの部分ではあまり関係ないのだ。


(2)なぜサイゾーに対して謝罪記事を求めることをしなかったのか

→内容証明から訴訟、という一連の流れを見る限り(そしてその間何も接触がなかったという前提で話をする限り)、なぜオリコンが事実誤認に基づく謝罪要求をしなかったのか。それが非常に気になる。このことについて納得がいく説明がオリコン側から出てこないと、烏賀陽氏個人が目の上のたんこぶになっていたから訴訟を起こしたと思われても仕方がないだろう。


(3)オリコンの目的は何か

→「烏賀陽氏個人に対する社会的制裁という幼稚な理由」でなければ一体何か。考えられるのは、自分たちがBtoBで売っているデータは「老舗で、正確で、完璧で非の打ち所がない信頼性の高いものである」ということを、対外企業に向けてアピールするということだ。BtoBビジネスが主体で、さらには上場企業である。上場企業が自分たちの「メシの種」を守るために、外部からの脅威に対して訴訟で応えた、というのが単純な事実かもしれないが、それにしても今回の件のさまざまなプロセスを見る限り、個人に対する訴訟としては「大げさ」な面は否めない。あまつさえオリコンは公式に「賠償金が欲しいというのではなく、これ以上の事実誤認の情報が流れないように(多額の賠償金を課すことで)抑制力を発揮させたい」「我々の真意はお金ではありません。個人攻撃でもありません。上記のとおり、烏賀陽氏に「明らかな事実誤認に基づく誹謗中傷」があったことを認めてもらい、その部分についてのみ謝罪をして頂きたいだけです。その際には、提訴をすぐに取り下げます」などと発言しているのである。これでは「訴権の濫用」だと言われても仕方のない面があるだろう。


(4)この訴訟でオリコンにメリットはあるのか?

→個人的な考えでいえば、これが訴訟までいってしまうことでオリコン側にとっては1つもメリットはないと思う。勝ったとしても、負けたとしても、デメリットの方がはるかに大きいはずだ。

というのも、この裁判、展開次第では彼らのチャートが「信頼性が高いものである」ということを証明するために、推定方法というブラックボックスの実態について、明らかにしなければならなくなる可能性があるからだ。ここを深く突っ込まれることはオリコンとしては本意ではないだろう。何しろ推計方法は「企業秘密」に属するようなものだからだ。

そして、「チャートの信頼性」が大きな議論になったとき、烏賀陽氏に協力する業界関係者もゼロではないのではないか。「証人」として裁判まで出る人がいるかどうかはわからないが、それ以外のさまざまな部分で、オリコンのチャートの信頼性についてしゃべれるという人はいるはずだ。オリコン側からすれば「そんなやつは業界に一人もいない」と踏んでいるかもしれないが、このあたりはどうなるかわからないところだ。予約をカウントするか否かの問題だけで済めばいいが、チャートの信頼性そのものに話が行きすぎると、オリコンとしてはかなり面倒くさい話になってくるような気がする。

たとえ「勝った」ところで、結果的にチャートの信頼性を損ねるような話が出てこないとも限らない。そして、もし「負け」たら武富士事件になぞらえられて、個人の言論を恫喝訴訟で潰そうとして負けたという汚名を着せられることになる。

オリコン側は100%勝てるつもりでいるかもしれないが、俺個人の感覚で見れば、この訴訟は法廷での議論の進み方によってどちらにも転ぶんじゃないかと思う。たとえオリコンが勝ったとしても、5000万円満額が得られることはないだろうし、裁判の過程でさまざまなブラックボックスを明らかにしなければならなくなるかもしれない。その「リスク」を考えれば、訴訟に踏み切ることは得策ではないと俺は思う。


●結論

長々と書いてきたが、とりあえず「現時点」での俺の結論を書いておく。

・迂闊なコメントをした烏賀陽氏も悪いし、それを見て真っ赤になって5000万円の訴訟を起こしたオリコンも大人げない。しかし、この件で一番責められるべきは(この件に関して)無責任な記事作りをしたサイゾー編集部・インフォバーン社にあるだろう。混乱を招いた多くの原因はサイゾー編集部にある、と俺は思う。

・オリコンチャートの信頼性というものは、恐らく今のビジネスモデルでオリコンがやっていて、ほぼ独占状態になっていることを考えれば、「買う側」からしてみれば重大な問題ではない。そして、今回のサイゾーの記事が出たことぐらいではその「信頼性」が揺らぐということはないはずだ。むしろ、オリコンがこういう訴訟を起こしたことで「何焦ってるの?」と信頼性を疑う向きが出てきたんじゃないか。

・信頼性の議論は「昔」の議論と「今」の議論が混同されがち。しかも、レコード会社が自主的に行う買い取りと、レコード会社とオリコンが「協議」して順位を変動させるのではまったく違う。音楽業界関係者に話を聞くと「どちらもある(あった)。しかし、操作できる幅はあまり大きくない」という意見が返ってくることが多い。オリコンは訴訟をすることでここを掘りすぎると、彼らにとって都合の良くない事実も出てくるのではないかという懸念がある。

・最終結論。1月9日の第1回公判の前にオリコンが訴訟を取り下げるのがいいと思います! そのときにサイゾーに事実関係があやふやだった「予約」の部分についてだけ謝罪記事を載せる、という条件で「手打ち」するのが、誰にとっても幸せなんじゃないかと思うんだけど……。


あ、一応自分の立場を明らかにしておくと、今回のこの三者。どことも付き合いはあります。烏賀陽さんとは普通に知り合いだし、共著出したいねなんて話もあります。

オリコンはORIGINAL CONFIDENCEに音楽配信の原稿を書いて、ギャラをもらった経験はあるし、過去に何度か取材に行きました。ORIGINAL CONFIDENCEのギャラはちょっと他の雑誌に比べると安いなーとは思いましたけど、特にそれでオリコンという会社に対して悪印象があったわけではありません。

サイゾーは何度か原稿書いたことあるし、メールマガジン版を出していたときは連載記事書いてました。あと、識者としてコメントしたこともあるし、基本的に僕はサイゾーという雑誌は好きです。

| 音楽業界全般 | この記事のURI | Posted at 08時15分 |

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