2004年12月27日(月)

【小野島大インタビュー】ジャンル別裏ベスト10   “音楽業界”

輸入権やCCCDを巡る混乱や、6年連続となるCD出荷枚数の減少など、なかなか明るい兆しが見えない音楽業界。今回は輸入権問題でも精力的に活躍、NEW WAVEトリビュートの監修でもおなじみの音楽評論家小野島大氏に2004年の音楽業界を「10大ニュース」として語ってもらった(本稿は週刊SPA!に掲載された「ジャンル別裏ベスト10」という記事の完全版です)。

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CCCD撤退や輸入権、大物アーティストの独立……音楽不況と呼ばれて久しいが、今年は特にめまぐるしく状況が動いた。音楽評論家の小野島大氏は「政治経済と音楽が密接に結びついていることを強く感じさせられた年だった」と振り返る。

「とにかくめまぐるしくいろいろな動きが起きた。今までだったらレコード会社の合併とか、資本の再編成とかは音楽ファンの利益不利益に結びつかなかった現象だが、輸入権やCCCDは今後我々が音楽を聴く上で生涯を左右するような重要な問題だった」

小野島氏は音楽業界に流れる不穏な空気を「自分の好きな音楽を聴きたいときに、それが自由に聴けない感じ」と評す。

「社会の動向や経済の動向が音楽と関連するようになってきている。大げさに言えば音楽ファンはブッシュ小泉がリーダーでホントにいいの? みたいな。マイケル・ムーアなんかの動きを見てもわかるようにアメリカだってあれだけ危機感をもっている。音楽ファンも決して政治に無関心ではいられない。無関心でいたら好きな音楽が聴けなくなってしまう状況だし、そういうことに関して自覚的にならざるを得ない」

音楽業界の現場を肌で知る小野島氏の危機感は相当なものだ。そんな危機的状況の中で、何か1つでも明るい兆しはないのだろうか?

「音楽ファン一人一人が自覚して業界を良い方向に変えていこうという連帯感はダイレクトに感じることができました。良いことも悪いこともいっぱいあったけど、そういう連帯感ができたのは数少ない今年の収穫でしょうね」


(以下ベスト10ランキング)

●10位 ラフィンノーズ、17年ぶりの日比谷野音ライブ

「3人死者を出した17年前の日比谷野音は本当に痛ましい出来事だった。ちょうどラフィンノーズがインディーからメジャーに行った頃は、音楽業界的に『パンク』というものに対してきちんとした認識もなかったし、そんな状況で彼らがもがいている中であの事件が起きてしまった。

結果的にあれが彼らにとてつもない重荷を背負わせたし、彼らが活動する上での負債になっていた。17年という時間を経て今では『パンク』という言葉の意味も随分変わってしまったが、どん底を経験しながら今なお『パンク』を続けている彼らの姿勢には頭が下がる」


●9位 リスナーを大きく白けさせたエイベックスの
「お家騒動」


「ああいうお家騒動が起きたことでスポーツ新聞なんかにも取り上げられて話題にはなったけど、決してイメージアップにはならないよね(苦笑)。そこのところはプロ野球とまったく同じ。リスナーが業界に対して嫌気がさしている中でそういう自分達の都合だけで勝手な騒動が起きてしまうとこっちが白けちゃう。

エイベックスのトップ交代は『強権的なやり方はいつかしっぺ返しが来る』ということなんだと思う。お客さんである肝心のリスナーが見えていないし、それを無視して動いたらああいうことも起きる。大体今のレコード会社のトップで音楽のことを本当に愛している人がどれだけいるのか?」


●8位 大物ミュージシャンが続々再結成

「再結成っていうと、コアな音楽ファンの中には拒否反応を起こす人もいるし、どうしてもネガティブなイメージがつきまとうもの。ただ、昔と違って再結成するバンド側もそれを見に行くリスナー側もいろいろな楽しみ方ができるようになってきた。その理由ははっきりしていて音楽ファン全体が高齢化してるってことなんだよね。大体あの『ロッキンオン』ですら最近は記事の親父化が著しいし(笑)

ファン全体の年齢が上がったことで、再結成ということに対する見方が変わってきたから、今後はアーティスト側も再結成に対する後ろめたい部分が消えてくるんじゃないか。もちろん、ファンが再結成ライブに行って楽しむのは単なるノスタルジーには違いないんだけど『別にノスタルジーでもいいじゃん』ってファンが開き直れるようになったのが今だと思う。

音楽ってどうしても『新しいものだけが偉い』みたいな風潮に流されやすい。それは一面では正しいんだけど、そうではない音楽もある。過去を振り返るのは今を生きるために必要なエネルギー源。親父のノスタルジーって切り捨てるんじゃなく、純粋に日々の生きる糧として音楽を素直に楽しめばいいんじゃないかな」


●7位 ロックフェスティバルはバブルを経て安定期へ

「ロックフェスバブルのピークは恐らく2年前。今はバブルを経て安定期に入った。フェスに行く人達が棲み分けされるようになってきている。例えばフジロックは苗場の山の中で真剣に楽しもうと思ったら10万円くらいかかる。だからお金に余裕がある社会人も多い。逆にサマーソニックは幕張で済むから、客層的にお金をあまり持っていない若者が多い。ただ、やっぱりフジロックは特別。フジロックを中心にその1年が回っていくというライフスタイルが音楽ファンの中に出てきた。

定着したという意味では、夏になると毎週末どこかでやるようになったし、地方ごとにそれぞれ特色も出てきている。ただ、フェスが定着する一方で平時の単独公演が成立しにくくなっているという弊害もある。特に洋楽はある程度集客力のある力のあるアーティストでないと公演自体が成立しにくい。だから、単独じゃなくて複数のアーティストをまとめたりもしているよね。ライブビジネス全般が『フェスしか儲からない』という感じになってきているという状況。

また、アーティストとの契約形態で、フェス出演と単独来日公演がコミになってる場合も多く、多いときは年に3回ぐらい来日するときがある。当然飽きられやすくなるし、アーティストの寿命が短くなることにも繋がる。

順調に見えるフェスだけど、実はここ数年でスポンサー関係がかなりシビアになった。今まで、ロックフェスって三菱自動車がスポンサーになって結構いっぱい出してくれていたんだけど、今はもう会社が潰れるか潰れないかみたいな話になっちゃってスポンサーなんてやれるような状況じゃなくなっちゃった(苦笑)。そういうことも含めて、意外とロックビジネスって世の中の景気の動向に左右されるんだよね」


●6位 日本のジャズ・フリーミュージック周辺の
ミュージシャンがおもしろい


「音楽のジャンル的には、DCPRGとか渋さ知らズとかROVOとか、普段は新宿PIT-INとかでやっているようなジャズ・フリーミュージック周辺のミュージシャンが目立ってきた年だったと思う。彼らが音楽業界の中で力を得てきてるし、ジャズやフリーミュージックがある種スノビズムの道具として使われている面もある。菊地成孔みたいな人の露出が増えているのはそういうこと。

大友良英さんなんかも、いろいろなレコーディングやライブに呼ばれてるし、ROVOは海外ツアーなんかも精力的にやっている。彼らがジャンルを超えた活動をすることによってロックミュージシャンも即興やセッションのおもしろさをわかるようになってきたし、ロックにどんどんそういう即興的要素が取り込まれてきている」


●5位 メジャーとインディーズの棲み分けがより明確に

「佐野元春がEPICソニーから独立して、今インディーに行ったというのは象徴的な話。メジャーを離れたからといって“落ちぶれた”印象は全然ないし、独立独歩でやりたいことをやる場所としてインディーを選んだのだろう。

以前と違ってインディーだからといって食えないことはない。ロックであろうがクラブミュージックであろうがきちんと食えている人は食えている。フジロックで渋さ知らズが大トリを務めたように既にライブの世界はレコードの世界よりインディーとメジャーの垣根がなくなってきている」


●4位 リスナー主導型の新しい音楽配信サービス
「レコミュニ」が始動


「レコミュニがいいのは、リスナーが“配信業者”になれるところ。面倒な許諾業務をレコミュニが代行してくれるので、こっちは勝手にみんなに広めたい曲をアップロードすればいい。大体音楽ファンの多くは気に入ったレコードを人に聴かせたくてしょうがない。音楽評論家はそれのなれの果てみたいなもん(笑) 自分が推薦した楽曲が購入されれば自分にもポイントという形で還元されるんだから、理想的なシステムだよね。

あとは廃盤になったレコードや手に入りにくい国のレコードを見つけてそれを配信できるというのも魅力。廃盤でプレミアついているようなレコードも、ジャケットなしで圧縮かかってるけど1曲100円で買えれば喜ぶ人は多いだろうし、音楽をいろいろな人に安く開放するという意味は大きい。そもそも日本のレコード会社はたくさんカタログは販売しているけど、たいてい売れない作品は3〜4年もたったら廃盤にしてしまう。そうなるとリスナーは中古盤屋で探すという選択肢しかない。だけどレコミュニは廃盤になったレコードでもOK。現状はメジャーの許諾を得られていないし、どマイナーなインディーになるとそれはそれで交渉先が見つからなかったりして許諾が下りなかったりもする。まだまだ理想にはほど遠い状況だけど、可能性はあると思う。理想通りにことが進めば音楽ファンにとって望ましい音楽配信になるんじゃないか。

最近はミュージシャン自身がレコミュニで曲を直接販売するという意欲的な試みも見られるようになってきた。そうなるとインディーレーベルすらいらなくなるわけで、今後レコミュニの動向いかんによってはインディーズの音楽の在り方も変わる可能性がある」


●3位 音楽とIT技術の関わりが顕著に
iTunes Music Storeも全世界でブレイク


「iTunesを自分のパソコンにインストールしてから、買ってきたCDをハードディスクに入れて、ハードディスクから音楽を再生するということが当たり前になった。そうなるともはやきちんと曲名とか見なくなっちゃってて、そういう細かい部分が自分の中でどんどん意味をなくし始めてきている。IT技術は確実に音楽ファンの音楽の聴き方を変えるだけのパワーを持っている。

ネットやITがどんどん音楽に結びつく時代になって相対的に音楽雑誌の地位が低くなってきているし、今まさに存在価値が問われているんじゃないか。マニアックな個人が発信する情報に絶対音楽雑誌は勝てないし、同じ土俵で勝負してもしょうがない。ネットやITがこれだけ普及している中で音楽雑誌がどういう情報を発信していけば良いのか、それを音楽雑誌は真剣に考えなければならないんじゃないか。

ブログのいいところは更新がとにかく簡単というところ。あとはトラックバックがあることで情報の伝達速度が全然違う。ネットのない時代だったら輸入権問題のとき、あんなに短い期間であれだけの署名を集めることはできなかった。ITやネットのインフラができることで、情報が安くなり相互にアクセスしやすくなっている。実際自分もはてなアンテナ使って自分の気に入ってるサイトが上がったら見に行ってるし、ネット通販もめちゃめちゃ使ってる。Amazonとかヤバいよね。ただ、ネット通販があまりにも便利だったからついついCDを買い過ぎちゃうという悪い面もある(笑)。真面目な話、情報や音楽が手に入りやすくなってしまったことで、1枚のレコード、CDに対する“ありがたみ”や執着が薄れてしまった。このあたりはITのもたらした功罪だろう。

iTunes Music Storeに関して言えば、日本でもiPodがあれだけ普及しているのに日本版iTunes Music Storeがスタートしないのはおかしい。日本でも米国並みの価格や使い勝手でiTunes Music Storeを始めれば、大きな流れになることは間違いない。WinMXとかWinnyを使ってネット上に落ちてる音源を後ろめたい思いでダウンロードしている人って少なからずいるだろうし、そういう人は1曲100円でiTunes Music Storeが始まったら買うだろう。大体CDの3000円って価格は高すぎるよね」


●2位 大手レコード会社がCCCDから相次いで撤退

「今年の頭に自分が監修したNEW WAVEトリビュート(『Fine Time 〜 A Tribute to NEW WAVE』 Ki/oon Recordsから発売)がCCCDで発売されてしまった。ちょうどSMEがアルバムも含めて全タイトルをCCCDでリリースすることを決定した直後で、結果的に導入第一弾になるハメに。自分としてはCCCDにしたくなかったし、はっきり言えば現場もCCCDを導入することには反対だった。だが、SMEの『どんなアーティストでも例外は許さない』という方針は変わらず、最終的にCCCDでのリリースを飲まざるを得なかった。SMEはそのあとすぐそうしたすったもんだで佐野元春もいなくなってしまったよね。

自分もあのトリビュート盤がCCCDになったことで、各方面やネットでいろいろなお叱りを受けた。それなのに、SMEは全アルバム導入したわずか半年後に彼らの勝手な都合でCCCD全面撤退を発表した。振り回された人間からしてみたら『一体なんなんだよ』という思いはある。

CCCDの一番の問題点は通常のオーディオプレーヤーで再生できない可能性があるということ。にもかかわらず返品に応じない。これって『誰も責任を取らない』ってことだよね。欠陥商品売っておきながらその責任を取らないってのは、まず物を売る人間のマナーとしてなってない。今さら言ってもしょうがないけど、レコード会社がかからないプレーヤーがあったときに返品に応じていれば、みんなの心証も多少は違ったんじゃないか。まぁ、消費者をはじめから犯罪者扱いっていう素朴な部分にも腹は立つけど。

自分たちのビジネスがうまくいかない責任を消費者にしわ寄せするような姿勢は絶対に見透かされる。レコードを作っている現場で『CCCD万々歳』なんてやつは一人もいなかった。CCCDで失った信頼を回復するのはかなり大変だと思う」


●1位 突如制定された輸入権 輸入盤の今後は!?

「いろいろなニュースはあったが、自分としては輸入権の問題が一番印象深い。ただ、いろいろな努力は実らず、禁止期間は4年になってしまった。我々の希望は“禁止期間は3カ月から半年にせよ”ということだったので、4年という決定は結果的には敗北だし、くやしい結果ではある。実際に来年以降法律がどのように運用されるかまったくわからないし、向こうのレーベルが権利行使して輸入盤をストップさせる可能性はゼロではない。

輸入権がない今でも、EMIの輸入盤はとても高い。メジャーレーベルの輸入盤は、輸入部が日本に仕入れて大型店などにディストリビュートするため、利益の最大化を求めて価格が高くなる傾向がある。これは単に法律ではなくビジネス慣習の話だが、今後はこれに法的な裏付けができるということ。メジャーが輸入権を行使しなくても輸入盤の価格が高くなる可能性はあるだろう。

ただ、この問題をポジティブに捉えたい部分もある。1つは音楽ファンの署名が6万人集まったということ。また、音楽メディア関係者の署名も600人以上集まった。ジャンルとか職業とか、いろいろ立場の違う人が大同団結してレコード会社に“NO”をつきつけたということは、意義が大きい。

プロ野球再編問題もそうだけど、あれもファン不在で一方的に物事が進められていったから、それに対してファンが団結してNOをつきつけた。音楽ファンが音楽業界が変なことをしそうになったらそれをウォッチしておかしいことはおかしいと言おうという雰囲気に変わってきている。文化庁が募集した輸入権の禁止期間のパブリックコメントに多くの人が投稿してくれたりね。そういう音楽ファンの意識が向上したことは悪いことじゃない。

『終わっちゃったからしかたないね』じゃなくて、これからもきちんと監視していきますよ、ということが重要。今は草の根的にいろいろなネットワークが生まれてきている。そういう意味でも、この問題は音楽業界に音楽ファンの力を見せつけることができたんじゃないかと思う」

(小野島大プロフィール)
音楽評論家。東京都世田谷区在住。著書に『音楽ライター養成講座』(音楽之友社)、編著に『ロック・オルタナティヴ』(音楽之友社)、『NU SENSATIONS 日本のオルタナティヴ・ロック1978-1998)』 (ミュージックマガジン社)、『The DIG presents Disc Guide Series UK NEW WAVE』(シンコーミュージック)、『200 CD ヘヴィ・ロック』(立風書房)などがある。New Wave再発プロジェクト「UK New Wave Renaissance 2004」(04年2月よりリリース)の企画監修にたずさわる。

| 音楽業界全般 | この記事のURI | Posted at 01時21分 |

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