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ナタリーってこうなってたのか 表紙

ナタリーってこうなってたのか

大山卓也 著 / 双葉社

ISBN:978-4575307009 / 版型:18.2×12×1.2cm
ページ数:184ページ / 定価:1080円(税込)

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2006年04月18日(火)

「CD売上回復!」というストーリーを作りたいレコード会社たち

音楽ソフトの年間生産実績、金額ベースで7年ぶりにプラス(ITmedia)
レコード生産額が7年ぶりに前年を上回る、iTMSなど音楽配信が好影響(INTERNET Watch)
音楽ソフト生産7年ぶり増−ネット配信がCDに好影響(SANSPO.COM)
ネット配信 CDの味方?音楽ソフト生産額4%増(YOMIURI ONLINE)

一般紙などでも報じられてることで割と注目している人が多いニュース。でもこれってある意味では数字のまやかしでしかない。そもそも「2005年」というタームで括ったときにオーディオレコードの総生産金額は他ならぬレコ協の発表した生産実績を見れば分かるが下がっている。つまり音楽バブルのピークだった1998年から7年連続でCDの売り上げは落ちたのである。これまで音楽CDの売上は「年度(4月〜翌年3月)」という単位では語られることは少なかった。大体「年度」なんて国によって異なるものだし、IFPIなり、RIAAなりほかの諸外国は通常CDの売り上げは年ベースで出しているのだから日本だってそれに合わせるのが当然だ。ではなぜ今回だけレコ協は「年度」にこだわったのか。それは「CDの売上がプラスに転じた」という「ストーリー」を喧伝したかったからに他ならない。2005年の月別生産実績を見れば分かるが、昨年の1月〜3月というのはCDがとにかく売れていない。1月こそ前年比98%だが、2月は84%、3月は78%と、とにかく春先にCDが壊滅的に売れてなかったのだ。1月〜3月の累計で平均すると前年同期比85%。落ち込みは4月に最大になるが5月以降は回復し、2005年全体としては3672億円となり、2004年の3773億円とほぼ同じ水準に落ち着いたというわけだ。

つまり。

2005年の中で圧倒的にCDが売れてなかった1月〜3月の数字を抜き、CDが回復傾向に向かった4月以降(年度)で切ってしまうことであら不思議、CDの総生産金額を「上昇」に転じさせることができたのである。読売新聞にはグラフがあるが、これと通常レコ協が公開している「年」ごとの生産金額実績のグラフを比較すると、2001年あたりで数字が微妙に違うことがわかる。恐らく読売新聞の記事ではわざわざ「年度別」のグラフを起こしたのであろう。ご苦労なことです。落ち込んだ2005年1月〜3月は前年度に「負債」として押しつけることができて、CDが売れた4月以降のデータを抜き出すことで前年同期比を「上昇」に転じさせることができるわけだから、ちょっとした「数字のマジック」がここにあったというわけだ。

しかし、実のところ数字のマジックというほど大げさな話ではなく、前「年度」と比較したときにプラスに転じていることは事実である。統計を見ればわかるが、実際2003年以降落ち込みの度合いは低くなっていた。事実としてここ1〜2年で音楽CDの売上は下げ止まりの傾向があったのだ。レコ協の目論見的には2005年に数字をプラスに転じさせて「回復傾向にあるんだよ」というプロパガンダをしたかったのだろうが、それは残念ながらかなわなかった。だったら2006年の実績で前年より「上昇」に向かえばいいわけだが、それには1年待たなければならないし、今年の1月〜3月の状況を見ると果たして上昇に転じるかどうかも不透明だ。だが、音楽業界全体としては着うたフルが売れているし、iTMSが始まったことでようやくPC向け音楽配信の市場も立ち上がってきた。そんな中「CDの売上も回復しているんですよ」というアピールができないのはつらいし、このままではまた短絡的なメディアに「配信が伸びてCDが食われる」という浅い批評をされてしまう。で、年度で生産金額を切ってみたらわずか4%だけどプラスになるという結果が出た。そこで「これなら音楽配信で音楽需要が大きくなって結果CDの売上も伸びた! 配信はあくまでテンポラリに楽しむもので、『大多数の音楽ファンはやはり手元に残しておきたいのだよ』というストーリーを作れる! ラッキー!」みたいな感じになって、こういう大本営的発表をしたんだろうね。

2005年の各種統計データが公開されたのは3月8日で、あまりメディアで大々的に「7年連続でCDの売り上げが下がった」みたいなニュースが飛び交わなかったのでおかしいなーとは思ってたんだが、ここでこういうニュースとなるあたりで、なんとなく合点がいった。

まぁそのあたりはレコ協の広報宣伝戦略の話だから俺的にはどうでもいい。配信が盛り上がっているときにCDの売り上げも上昇に転じたという報道をさせることで、音楽業界全体が盛り上がっているような世論誘導・印象形成をすることもそれ自体は悪いことではないと思う。

しかし、俺が腹が立つのはここ。サンスポと読売の記事から引用する。

同協会では「消費者がネットで気軽に音楽に触れられるようになった結果、音楽CDに戻ってくる相乗効果があった」とみている。

日本レコード協会は「携帯電話などを通じた音楽のネット配信が普及したことで、利用者がアーティストの他の曲や歌詞カード、ジャケットを求めてCDなどを購入した」と分析。「今後もネット配信の拡大とともに生産額は増加する」と強気の見方をしている。

彼らの↑こういう物言いだ。

今まで自分たちに原盤使用料が入ってこないっていう理由で散々着メロを中心としたケータイ文化を憎み、さらにはPCで音楽を楽しむ音楽ファンを「違法コピーユーザー」と犯罪者扱いしてクソ以下の欠陥メディアであるCCCDをリリースし、そのことに対して何の反省も見せず、音楽配信サービスについてもまったく普及させる気を見せずに消費者がまったく使う気が起きないガチガチのDRMしかかけず、さらにはiTMSが入ってくるのをあからさまに妨害してきたような日本のレコード会社たちがどの口で「配信のおかげで音楽需要が喚起され、CDの売上上昇をもたらした」とか言えるんだと。

音楽配信やファイル交換ソフトが音楽需要を喚起して「音楽に戻ってきて、結果CDの売り上げが増える」なんて調査結果は米国はもちろん、日本だって2003年頃からいくらでも出てただろうに。そういうものには全部耳をふさいでCCCDリリースしたり、WinMXの個人ユーザーを提訴してきたようなレコード会社に今更「配信で気軽に音楽に触れられるようになったからCDに戻ってきた」とかそんなこと言って欲しくないね。そもそも昨年の生産額発表時に新聞などの一般メディアに対して「ネット経由の音楽配信の広がりなどでCD離れが進んだことが原因」とか「ネット配信など音楽を聴く手段が多様化し、CD離れが進んだ」とか今年と真逆のこと言ってるような協会だよ? 面の皮どんだけ厚いんだよっていう。まぁこの記事書いた記者の推測という可能性もあるけど、多分こういう記事の場合、発表資料とかそういうのからそのまま転記していることが多いのでレコ協が言ったんだと思う。
 
もっと言えば、そういう音楽需要の喚起には間違いなくiPodも貢献しているということだ。iPodは音楽ファンに自分の持っている音楽ライブラリを持ち歩く、シャッフルで聴かせるといったように新たなリスニング体験をもたらしたし、さらにアップルは消費者にとってハンドリングのしやすい音楽配信サービスであるiTMSでPC向け音楽配信サービスそのものの需要も上げてくれた。MoraなんてiTMSが入ってきた昨年8月以降、月間ダウンロード数が急速に伸びて、1月には前年の約3倍まで伸びてる(確か8月の時点では50万曲強だったはず)んだよ。これは間違いなくiTMS登場で一般消費者に音楽配信の敷居が低くなったことと無関係ではないし、「よくわからないけど最近テレビのニュース番組で『これからはネットで音楽を買う時代だ』みたいにやってたから、いい加減MDウォークマンじゃなくて新しいプレーヤーにしたいなぁ。じゃあビックカメラでもいくか。あーこれがiPodか。やっぱりおしゃれだなぁ。え、なになに? iPodじゃなくてソニーのウォークマンAの方がオススメ? iPodもウォークマンもやれることは一緒? どっちもネットで音楽買えるの? しかもソニーの方が値引率いい? うーんじゃあソニーにするか」みたいに騙さr……消費者が買わされた「ウォークマンA需要」が明らかにMoraのダウンロード数を押し上げた部分もあるわけで、そういうところまで含めていろいろ音楽業界に貢献してくれたiPodのことは一切言及せず、かたや私的録音補償金問題ではiPodから大金をせしめようとするわけね。いやはや大したダブルスタンダードですこと。

つーか、本気で配信がCD需要伸ばすとかあなたがた思ってないでしょ? 配信も伸ばしてCDも伸ばす具体策とか何も考えてないでしょ? それ本気で考えてるんだったら、いまだにクソCCCD続けてる東芝EMIにきちんと「協会」として指導してやめさせなよ。SMEにiTMSに楽曲出すよう促しなよ。SMEがMoraでATRAC3 128Kbps、210円で売ってる音源を、着うたフルとかDUO MUSIC STOREではHE-AAC 48Kbpsのクソ音質しかも420円っていう倍の値段にして不当に消費者から搾取してる現状を何とかしてよ。でも、そんなのできないよね。

上の段落に関連するどうでもいい余談を1つ。とある音楽業界のお偉いさんたちが一堂に会する規模の大きなパーティーに出席したことがあるんだけど、パーティー終わって帰る前にトイレでウンコしてたら、そこのトイレにお偉いさんっぽい人たちがたくさん入ってきておもしろいトイレトークが聞けたのね。彼らも酔っぱらってるから口が滑る滑る。曰く「音楽配信で売れてるのは本当の音楽じゃない!」「着うたとか買う奴の神経が信じられないよね」「我々はやはり本当の音楽を作って行かなきゃいけないし、そのためには配信なんかじゃなくてCDじゃないと!」とかどう見ても香ばしい発言のオンパレード。本当にありがとうございました>俺の腹具合。これ、一切作りのないマジ話だから。高級ホテルのトイレで一人ウンコしながらほくそ笑む俺。どんな構図だ。産業スパイがトイレでソーシャルエンジニアリングするってのは、いまだに有効な手段なんだなーと思ったよ。

話を戻そう。レコード協会が本当にやらなきゃいけないことは、こんなくだらない数字遊びじゃなくて、本気で配信とCD(パッケージ)が共存していくにはどうすればいいのか考えることだ。本気でやるつもりないんだったらずっとCDビジネスやってりゃいいし、私的録音補償金制度とか輸入権とか再販制度とかの既得権益にしがみついてりゃいいんじゃね? 良かったよね、しがみつくものがたくさんあって。でも、それってゆるやかに安楽死に向かっているだけかもよ。インディーズだって配信だって、これからは本当の意味で伸びていくしかない。そのとき、今のメジャーレコード会社は肝心のアーティスト達から頼りたくなる存在でいられるのかな? ふふふ。

| 音楽業界全般 | この記事のURI | Posted at 22時15分 |

第2回「デジタル音楽勉強会」のご案内

前回予想以上の申し込みをいただいた「デジタル音楽勉強会」ですが、きちんとした内容を用意できなくて申し訳ありませんでした。もっと雑談っぽい感じを考えていたのですが、せっかくあれだけの方がお越し頂けたのですから、今後は毎回テーマを決めて討論したり、講師の方を呼ぶなどしてきちんと真面目な内容でやっていきたいと思います。

というわけで第2回開催要項です。

第2回「デジタル音楽勉強会」概要

●開催日時:2006年5月17日(水)午後6時30分〜8時30分

●場所:東京都世田谷区 京王井の頭線新代田駅周辺(参加確定者に詳細をお知らせいたします)

●参加条件:
・現在、デジタル技術やIT技術を使った音楽ビジネスに何らかの形で携わっていること

・デジタル技術やIT技術を使った何らかの音楽ビジネス・レーベルなどの立ち上げを考えている

・音楽が好きで、デジタル音楽がもたらす様々な可能性に対してポジティブな考えを持っている

●募集人員:35名(先着)

●費用:1000円(場所代、資料印刷代、講師料などの最低限の実費をいただきます。よろしくお願いします)

●応募方法:氏名、所属を記載したメールを「td アットマーク xtc.bz」まで送ってください(参加希望以外のお問い合わせもそちらにお願いします)。

●応募締切:2006年5月8日(月)正午(ただし、募集人員に達した場合は先に締め切らせていただきます。

●今回のテーマ:第1部は音ログ.jpの管理人マサヒコ氏をお呼びして、音ログがどのようなサービスなのか、再生履歴で音楽ユーザーがつながる音楽コミュニケーションについて語っていただきます。

第2部は「音楽SNS(コミュニケーションサービス)の未来」というテーマで自由討論みたいな感じにしようと思います。参加者各位には簡単なレポート(こちらの質問に回答していただく形式)の提出をお願いします。

たくさんのご参加お待ちしております(なお、6月以降は基本的に毎月第2水曜日に世田谷区近辺で開催していこうと思っています)。

※今回の募集は締め切りました。参加者の方々には詳細メールを送信しましたので、もし届いていない方がおられましたらご連絡お願いします。

| デジタル音楽勉強会 | この記事のURI | Posted at 16時25分 |

2006年04月08日(土)

J-POPが流れる合法ネットラジオサービスが続々登場

まずは既報の通りリアルネットワークスの定額制ネットラジオの記事から。

リアルネットワークス、日本初の本格的定額聴き放題インターネットラジオサービス「リアルミュージック」を 5月上旬サービス開始予定(リアルネットワークス)

リアル、月額945円の24時間ストリーミング音楽配信−約150chを用意。ダウンロード販売も予定(AV Watch)
リアルネットワークス、月額945円で定額制のストリーミング音楽配信(INTERNET Watch)
リアル、定額ネットラジオで音楽配信参入(ITmedia)
リアル、ソニーも参加の日本オリジナル定額制ネットラジオを開始(ITmedia)
リアルネットワークス、定額制の聞き放題インターネット・ラジオ(nikkeibp.jp)
リアルネットワークス、定額で聴き放題のインターネットラジオサービス“リアルミュージック”を5月上旬に開始(ASCII24)
リアルネットワークス、定額制インターネットラジオを5月上旬開始(Japan.internet.com)


んで、それとは別にこんなニュースも出てきた。

ニッポン放送、ネットラジオを大幅ボリュームアップ−12時間に拡大し、音楽も大量発信。BSラジオは終了(AV Watch)
ニッポン放送、楽曲や動画番組をストリーミング配信する「LFX mudigi」(INTERNET Watch)


Yahoo!のサウンドステーションがどんどんラインナップ拡充しているように、ここにきて盛り上がりを見せつつあるネットラジオサービス。総括の前にRealの新しいサービスの分析からしていこう。

まず、リアルのネットラジオサービスは基本的に「有料サービス」だということだ。150チャンネル用意されており、ITmediaによればソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)も参加することになっている。

権利の囲い込みが大好きでiTMSにはいまだに楽曲を提供していないSMEがなぜこういうサービスに楽曲を提供したかという話だが、それを説明する前にこのサービスの歴史的な話をちょっとしよう。

実はこのサービス、本来ならば2003年末には始まる予定のサービスだったのだ。リアルネットワークスは2003年8月に英国のRealを通じて日本向けに有料ネットラジオサービスを展開していた。このとき俺は日本のリアルネットワークスに取材してその記事がYahoo! Internet Guide11月号に
掲載された。とりあえずそれを若干修正して転載しておくので読んでもらいたい。

この秋から有料のネットラジオサービスが続々とスタートした。有料ネットラジオの最大の売りは、CD並みの高音質でフルコーラスの楽曲を聴けるというところ。ただし、現時点ではどこも権利面の問題から洋楽しか流れていない。

So-netが運営するWonder Jukeは日本初となる聴き放題型音楽配信サービスだ。純粋なネットラジオではなく、登録されている楽曲をユーザーがオンデマンドで呼び出し、ストリーミングで聴くことができる。既に米国ではこうした聴き放題型のサービスが主流になっており、Wonder Jukeも同様の使い勝手を実現している。Wonder Jukeのディレクター内藤克彦氏はWonder Jukeを始めた理由をこう語る。

「米国の聴き放題型音楽配信は音楽ファンにとっては夢のようなサービスなのに、米国内の利用に限定している。CDならば輸入盤ストアに行けば世界中のCDを買えるのに、ネットでそれができないのはおかしいですよね。だから、ああいう便利なサービスを日本でも始めたかったんです」

Wonder Jukeの場合、楽曲の買い付けはAIMというイギリスの独立系音楽協会を通して行っている。サービス開始直後は海外のインディーズ音源を土台にして、今後はジャズ系やコンサート系の音源も配信し、ジャンルの多様性を確保していくという。

一方、約1年前に新プレーヤーRealOneを発表したリアルネットワークスも、8月末より有料のネットラジオサービスを開始した。曲数は6万曲相当とWonder Jukeと比べると多いが、オンデマンドで好きな曲が聴けるわけではない。これで月額900円というのは料金的に割高感があるが……。

「あくまでこれは、来るべき音楽配信サービスへの“とっかかり”です。現在日本のレコード会社と調整中で、年内には国内のJ-POPを流すネットラジオサービスを始める予定です。また、米国のRhapsodyという聴き放題型サービスの日本展開も考えておりまして、早ければ1年後くらいには日本の音楽が流れる聴き放題型サービスが提供できるのではないでしょうか」(RealOneサービス本部長森勉氏)

2年近く前から積極的にネット展開を進めてきた米国の音楽配信と異なり、日本の音楽配信は、カタログ数、価格、使い勝手の面で大きく劣っている。そしてこれこそが、日本で音楽配信が進まない最大の理由でもある。東芝EMIやワーナーの参加するdu-ubも8月末でなくなってしまった。複数のレコード会社で構成されるレーベルゲートもSME以外の会社はあまり積極的に楽曲を提供していない。米国のiTunes Music Storeの成功や、聴き放題型サービスの台頭に倣って、次の一手に踏み出すのか、それともdu-ubのように完全撤退の方向に向かうのか……。どちらに転がるにせよ、日本の音楽配信が転換期に来ていることは間違いないだろう。これまで、日本で音楽配信が進まない最大の理由は「大手メジャーが消極的」ということだった。だが、それもブロードバンド環境の整備や、米国のiTunes Music Storeの成功で、徐々に態度が軟化しつつあるようだ。数年後にはネットで最新J-POPを楽しむというライフスタイルが当たり前のものになっているのかもしれない。

上のリアルのサービス本部長森氏が語ったように、リアルと日本のレコード会社の交渉が順調にいけばJ-POPが流れる有料のネットラジオサービスが2年半前に実現していたのである。

2003年12月を過ぎてもまったくサービスが始まる気配がないので「あーレコード会社がどうせ、違法コピーにつながるネットラジオは許諾できない」とか言い出して決裂したんだろうなと思ってた。

で、その後2005年8月にYahoo!が無料でJ-POPが流れるネットラジオサービスを開始した。当初は原盤権を保有するプロダクションであるオーガスタなどの限られた楽曲が中心だったが、初めてみたら思った以上にこのサービスに集客力があった。また、Yahoo!とSMEはレーベルゲートと提携してATRAC3形式の音楽配信をやっているという「接点」もあったため、12月にはSMEの楽曲がサウンドステーションで聴けるようになった

こうしたサービスは「コンテンツ」を流してトラフィックを集めたいインフラ側であるYahoo!がSMEやほかのレコード会社に使用料を払うことで成立している。しかし、SMEはなかなかあくどいというか、えげつないというか、ビジネスが分かっているというか、新譜が出るアーティストの発売日近辺に合わせて1カ月だけサウンドステーションに楽曲(中島美嘉チャンネルとかアジカンチャンネルとか)を提供し、期間が過ぎた後はソニーミュージックステーションという1チャンネルにしか楽曲を提供していない。

つまり、SMEとしてはYahoo!のインフラを使って、本来広告宣伝費としてコスト計上しなければならない新譜発売のための「プロモーション」を行い、あまつさえそれに対してYahoo!側から「収入」も得ていたということになる。Yahoo!側からしてみれば、お客が定着してトラフィックが増えなければサービスを展開する意味が薄れるわけで、当然「中島美嘉チャンネル」とか「アジカンチャンネル」は残しておきたいわけだが、それすらさせてもらえずいいようにレコード会社から金取られているわけだから、さぞかし現場は不満が貯まっていることだろう。まぁ別にSMEが違法行為やってるわけじゃないし、単にビジネス上手ですねというほかないのだが、個人的にはやってることがせこいなーとは思う。

話を戻すとサウンドステーション、業界的には「思った以上にプロモーション効果がある」と認識したのだろう。それでいてお金ももたらしてくれるわけだから、さまざまなレコード会社が現在サウンドステーションに参入しているのもわかりやすい話だ。で、一旦ポシャったはずのリアルの有料ネットラジオサービスが始まったのもこうしたサウンドステーションの「(レコード会社にとっての)成功」が背景にあるのだろう。

ただ、無料のYahoo!は32Kbpsとビットレート低いからいいけど、恐らくリアルの方は128Kbpsあたりでやるのだろう。そのため「有料じゃないと許可できませんよ」という感じになっているのではないか。

このリアルのサービス、Yahoo!と違って結構高めの有料サービスのくせに楽曲のスキップはできない糞仕様。海外のサブスクリプションみたいにToGoサービスがあるわけじゃないし、これで一般リスナーに訴求するのかねぇという疑問はある。

俺的な注目はこのサービスの画面構成だ。



この専用クライアントソフト、画面構成から見る限り俺が普段利用している米国のグレートサブスクリプションサービス「Rhapsody」とほとんど同じなんだよね。Rhapsodyの画面はこんな感じ↓



恐らくこのクライアントソフトを日本用にカスタマイズして機能限定したものが「リアルミュージック」なのだろう。だから、とりあえずここはまずレコード会社とのきちんとしたパイプを作ってサービスを展開し、機が熟したら(レコード会社がサブスクリプションにも理解を示したら)日本にすぐRhapsodyを展開できるようにするということなのかもしれない。そういう意味では期待は持てるけど、日本で本当にサブスクリプションサービスが始まるのかどうかは本当にわからないところだ。

一方独自の路線でJ-POPがまともに流れるネットラジオサービスを4年半前からやっていた「ブロードバンド!ニッポン」を運営するニッポン放送が「LFX mudigi(ミューデジ)」というサイトを立ち上げた。ユーザーからリクエストを受け付けて、それをプレイリストとして配信する「人力オンデマンド音楽配信サービス」とも呼ぶべき「あなたのジュークボックス」と、DJのトークと音楽を一緒に流す「ミュージッククルーズ」を開始した。

ブロードバンド!ニッポンの楽曲著作権処理方法はニッポン放送とレコード会社による個別契約とも言える独自スタイル。そのあたりはちょっと古い記事だが山崎潤一郎さんの“誰でも合法ネットラジオ”は日本でも実現する?という記事に詳しい。その中で

具体的な許諾方法については、「現在では十数社のレコード会社と包括契約を結んでいるので、月初に前月の使用楽曲を報告して使用料を請求してもらう」事後報告型で行っているという。気になる楽曲使用料だが、「現状は、1曲一回約1000円」とかなり高額。また「月が終わると、膨大な曲を整理して報告しなければならないので手間がかかる」とも。

と書かれている。今回のINTERNET Watchの取材記事でも同じニッポン放送メディア開発局デジタルコンテンツ部の檜原麻希氏がインタビューに答えているが、その中でも楽曲の許諾方法について触れられている。

インターネットで楽曲を配信するための著作権処理もポイントの1つ。基本的に著作権処理は楽曲ごと個別に行なうが、事前許諾ではなく月ごとに利用した楽曲を報告し、月の最後に一括して使用料を支払う方式だという。これもブロードバンド!ニッポンの際に確立した手法であり、檜原氏は「日本レコード協会などの団体が著作権の集中管理事業を検討しているという話も聞いている」とした上で、「それがいつ始まるかわからない現状では個別許諾の形は変わらない」と説明。「今回のmudigiも、各レーベルと1件1件話を進めていった結果として実現できた」との経緯を語った。

両者を比較すると、2004年1月の時点からほとんど許諾方法が進化していないということがわかる。というか、山崎さんが取材する1年くらい前、ほぼサービス開始当初に俺も檜原氏に取材したことがある。そのとき具体的な利用料の金額は教えてくれなかったが、許諾のやり方はほぼ同じだった。

「1回楽曲を流すごとに1000円」という基準が現在どうなっているのかはわからないが、恐らくほとんど変わっていないものと思われる。音楽業界ってのはそういうところだ。

たかがネットラジオで流すのに原盤許諾料がそんなぼったくり構造になってていいのかと俺なんかは思うわけだが、ライブドア株で300億円赤字出しても全然会社が揺るがないフジサンケイグループからしてみれば、そんな利用料金も大した痛手ではないのだろう。いいなー旧メディアの人は。

茶化し過ぎるのもアレなのでフォローしておくと、何にもルールがない状態でネットの原盤権を個別処理し、「通信」扱いのネットラジオできちんと従来のラジオと同じような番組を作ったニッポン放送の試みは評価されるべきだと俺は思っている。だが、あまりにもレコード会社におもねりすぎているというのも事実だ。こういう従来の業界構造の中から生まれるレコード会社に配慮し過ぎたビジネスモデルばかりが「固定」されてしまうと、Last.fmみたいなおもしろい音楽ネットサービスなんて生まれないわけで、そのあたりはやはり放送以外の業者に期待するしかないのかなとも思ってしまう。

ただ、檜原氏の「今年や来年は通信の権利の過渡期。放送局がこうした事業を進めると何が起きるのかを探っていきたい」という発言はまったくその通りで、リアルからああいうネットラジオサービスが出てきたことや、サウンドステーションの勢いが伸びていることなどを考えるに、今年から来年にかけてネット上でJ-POPが流れるということの意味がドラスティックに変わってくるのだろうなとは思う。6月くらいにはサブスクリプションのNapsterも始まるんじゃないかという話も出てきている。今後もネットラジオやネットラジオに近いサブスクリプションサービスには注目していきたいところだ。

| ネットラジオ | この記事のURI | Posted at 21時10分 |

私的録音録画小委員会参加についていろいろ

「iPod課金」の本格議論がスタート(ITmedia)
私的録音録画補償金制度の抜本的見直し、2007年末に文化審議会で結論(INTERNET Watch)
著作権分科会 私的録音録画小委員会(第1回)(zfyl)

ということで参加してきましたよ。私的録音小委員会。ニュース記事だとわかりにくいけど、基本的に第1回目ということで議論らしい議論はなく、委員一人ずつこの問題に対して思っているところを述べて終わり、っつー感じで委員会は終わりました。以前再販制度問題を討議する委員会を傍聴したことがあって、そのときに「こんだけ人がいて、2時間ちょいしか時間がなくて議論つーよりも、声が大きい人が独演会やるような場を何回かやったところで、結論なんか出ないよなー」と思ったので、そういう場に発言者として参加することは非常に不思議なものを感じたりもしますです、はい。

INTERNET Watchのレポートはほぼ僕の発言をトレースしてはいるのですが、こういうレポート記事の宿命といいますか、細かいニュアンスは違ったりします。

どんなこと話したか、話す際に使ったメモ書きを転載すると……

・津田です。普段は雑誌や新聞にITと音楽にまつわるさまざまな問題を解説するような記事を書いてます。
・今回こういう場所に呼んでいただいたということで、そういう物書きの立場でこの問題を語るということもそうですが、僕自身一消費者でもあるので、ネットに詳しい消費者がこうした問題についてどう思っているのか、一消費者としての視点からも語らせてもらえればと思います。
・まず、消費者の感覚としてはCDやDVDを購入した時点で「その音楽を聴く権利、DVDであれば観る権利を買った」という感覚。
・買った音楽は家でも聴きたいし、車でも聴きたいし、iPodでも聴きたい。
・しかし現実は技術的保護手段がかけられるのが全体的な潮流。
・私的録音補償金制度に限らないが、そうした消費者の聴きたい欲求を制限する方向に業界が流れると、「そんな自由に聴けない音楽は買わなくていい」という感覚になる。
・それで売上落ちるのは業界にとっても良くないんじゃ。
・それがこの制度や議論を見て思う全体的なこと。
・ただ、技術的保護手段と違い、私的録音補償金制度そのものはそうした聴きたい欲求を制限するものではない。
・制度が作られた趣旨とは反するかもしれないが一定の安価な料金を払うことで「コピーして聴きたい欲求を担保」するのなら消費者も納得するのではないか。
・それが唯一無二の結論とは僕自身まったく思わないが、そういう視点での議論があっても良いのではないか。

こんな感じです。

INTERNET Watchの記事の

IT・音楽ジャーナリストの津田大介委員は「消費者は音楽CDやDVDを購入した時点で、聴く権利や視聴する権利を購入したという感覚だ。家でも聴きたいし、車の中でも聴きたい。でも過度なDRMによって保護され、自由に聴けない場合も多い。そういう音楽や映画は結果的に『聴かなくてもいいや』となってしまう。業界にとっても悪いことなのではないか。補償金制度そのものはユーザーの欲求を妨げるものではないはず。補償金制度に支払うことで、ユーザーの欲求が担保されるのであれば補償金制度にも意味がある」とコメントした。

は、ほぼ僕の言いたかったことを伝えてるんですけど、最後の部分のニュアンスだけ違うかな。「意味がある」という強い言い切りでこの制度を肯定したわけじゃなくて、そういう視点での議論があってもいいんじゃないの? と初回なのであえて振ってみただけですよ。

あとは感覚としては最初に自分の立場として「一消費者」と言ったような気がしてて、それは要するに消費者の意見を自分が代表できるとは思ってないんだよね。特にこういうところ見るとホントそう思う。そういう意味では俺は物書きとしての立場と消費者としての立場の(この委員会における)置きどころを今後考えていかないといけないのだなーと思うわけですよ。

で、ウェブでは利害関係を隠したポジショントークが嫌われるみたいなので、私的録音補償金問題に関する俺のポジションと現状どう思っているかの率直なところを書いておこうと思う。

まず、現時点での俺の利害関係だが。

・私的録音補償金制度に直接関係する企業(iPodを発売しているアップルコンピュータや、ネットワークウォークマンを発売しているソニー、その他携帯デジタル音楽プレーヤーのメーカー、MDや音楽用CD-R、ハードディスクメーカーなど)から、現在利益供与を受けている立場ではない。過去に何らかの利益供与やコンサル料などをもらったこともない(ただし、製品発表会に行ったときにiTMSのダウンロードカードや松下の製品のサンプルをもらったことなどはある)。

・現在所有している携帯デジタル音楽プレーヤーは第5世代iPod、松下のD-Snap、アイリバージャパンのH320。

・現時点で小委員会に参加している方々の所属する団体から利益供与やコンサル料などを受ける立場ではない。現時点でそうした団体に出向いて勉強会の講師などを務めた経験などはない。

・JASRACについては2004年と2005年に行われたシンポジウムにパネリストとして出演し、出演料をいただいた。

・CDレンタル業者については、2005年にレンタル業者をまとめる日本コンパクトディスク・ビデオレンタル商業組合(CDVJ)主催のシンポジウムに慶應義塾大学助教授の田中辰雄氏と一緒に出演。音楽ユーザーのアンケートの分析などを行い、出演料をいただいた。また、CDVJ主催のホームエンターテイメント産業展にてパネリストの一人として出演し、出演料をいただいた。また、2006年度全国中小企業団体中央会「組合情報ネットワークシステム開発事業」で、レンタル・セル業者向けの音楽試聴システム開発事業の委員長に就任し、コンテンツ作成費などをいただいた。

・私的録音補償金の分配ルートにある共通目的事業の1つである、音楽制作者連盟の無料ライブ事業の企画部会の委員として、ライブイベントの企画立案に参加している。


利害関係はこんな感じ。ぶっちゃけギャラはどれも常識的な範囲内と思われるので、音楽業界からじゃんじゃんお金入って儲かってるって感じじゃないです。

で、俺はその上でこの問題についてどのように考えているかというと

・iPodはどう見ても音楽をコピーして聴くための機械であり、現状の形で私的録音補償金制度が存続するのなら、iPodは政令指定で補償金制度の対象に含めるべきだと思う。もちろん、iTMSで購入した音楽の場合、きちんと適正な分配が行われる著作権料を払っているため、iPodにコピーして聴く場合「二重取り」になるのではという指摘があることも理解している。しかし、現状ほとんどのユーザーは購入orレンタルした音楽CDからリッピングしたものをiPodに聴いている人が大半なわけであり、この二重取り構造だけを軸にiPod課金は免れるべきという意見は説得力に欠けると思う。

・しかし、それと同時にこれで書いたように

日本の音楽業界は音楽販売チャネルの可能性を大きく広げてくれたAppleに感謝こそすれ、恨む筋合いなんて一つもない。「iPodを私的録音補償金の対象にして、金を巻き上げろ」なんてケツの穴の小さいこと言ってないで、感謝状の一つでも贈ったらどうだろうか。

と思っていることも確かではある。まさにこういうタイミングでiPod購入したユーザーは音楽業界に多くお金を落とすようになっているという調査結果も発表されているわけでね。

・で、ここからが一番大事なのだが、俺自身原則論としては段階的にでもいいから廃止の方向に向かうべきだと思っている。二重取り問題にしても、徴収システムの都合上適正な分配が難しいという問題にしても、録音録画を行わない用途で購入されたときの返還金制度が実効性がないものになっている問題にしても、共通目的事業やこの制度自体が消費者に全然認知されていないという問題にしても、運用面でいろいろな問題を抱えていることは明らかなわけで、これ以上どんぶり勘定の徴収だけ増やしてどうするんだよ、という素朴な感情がないわけでもない。つまり、結論としては、先に補償金制度の存続そのものから議論すべきであり、iPodを対象に含めるかどうかというのは実は些末な問題なんじゃないかということだ。

・もちろん、補償金制度をなくすにしろ形を変えさせるにしろ、方法論としてハードランディングでいくのか、ソフトランディングでいくのか、という問題は常につきまとうわけであり、そこのところは委員会の中のパワーバランスとお役所の持って行きたい方向で行くしかないのかな、とは思う。

で、パワーバランスというと小寺信良さんがこの問題についてブログで言及してくれた。

補償金問題セカンドステージ(コデラ ノブログ)

メンバーに音楽配信系ジャーナリストの津田大介氏がいることで安心している方もいるかもしれないが、前回の法制問題小委員会のメンバーでは権利者側が不利ということがわかったためか、今回の委員選定では補償金反対派がゴッソリ抜かれ、代わりに権利者側の人数が大幅に増強されるというフザケた事態となっている。この委員を選定したのは、やはり権利者が多数の文化審議会著作権分科会である。

特に消費者としての立場として積極的に発言を行なっていた漫画家 里中満智子氏、全地主婦連事務局長 加藤さゆり氏が抜けたのは大きい。有り体に言えば、「なんか消費者の代表っぽく見える金髪のニイチャン1人ぐらいいれとけばカッコつくだろ」という、完全に権利者主導の人選なのである。友人でもある津田氏のがんばりに期待したいところだが、あまりにも不利である。

正直なところ、さっき書いたように俺自身かなりこの問題に対しては「立ち位置」をどこにすればいいのか悩んでいる部分はある。

で、委員会メンバーの権利者と利用者・機器側のパワーバランスでいえばやはり全体的に権利者側の方が多いと俺も思うし、俺みたいな人間が呼ばれたことで「『消費者の声も聞きましたよ』的な『アリバイ作り』に俺が利用されるよな」と思うところがないわけでもない。

とはいっても、昔と違って今は議事録が完全にネットで公開され、多くの人の目に触れられる。その意味ではたとえ結論ありきで決まることであっても、どのようなプロセスでそれが決まったのか、大衆が判断できるというのは重要な意味を持っているのではないかとも思うのだ。議論を受けた上でパブリックコメントも受け付けるわけだしね。昔と比べてパブリックコメントは確実に政策決定における重要度が増してきているというのが俺の素朴な印象だ。

JASRAC登録している友人のインディーズミュージシャンがこんなことを言っていた。

「自分にも私的録音補償金の分配入って来るよ。ただ、ほとんど意味ないような金額だけど。なんでこの曲の分だけ、とかの理由も全然わからない」

実際問題として今補償金の額は20億円くらいだ。これがiPodなどの携帯デジタル音楽プレーヤーが対象になって50億円くらいまで増えたとしても、彼にはその「ほとんど意味ないような金額」が3倍になるだけでしかない。彼の作った音楽はさまざまなテレビ番組でジングルとして勝手に使われているにもかかわらずテレビからの収入も微々たるものだ(まぁこれは私的録音補償金制度の問題ではなくJASRACの放送ブランケット徴収の問題なわけだが)。ただ、このへんはいろいろな考え方ができるわけで、あえて過激なことを言ってしまうと「たかだか20億円がちゃんと分配されようが、そうでなかろうがほとんどの権利者には関係ない」とも言えるわけで、だったらこの制度はザル分配のままでもいいんじゃないの? という考え方だってありなんじゃないかと。もちろん1000億円徴収されてそれが適正に分配されてなかったら大問題だろうけど、20億円くらいならまぁ誤差の範囲で許せるんじゃないか、という面もあるんじゃないだろうか(俺が本音でそう思っているか、という話は別だけどね)。そのたかだか数十億円を適正に分配するために必要なコストって多分バカにならないし、現実的判断で考えていったらそうじゃなくてもっと大きな金額でどんぶり勘定になってるところをどうにかした方がいいんじゃないの? みたいな。で、もっと言えば「たかだか20億円なんだから、そもそもこんな制度廃止したって大した問題にはならないじゃん」という根本的な考え方だってできるだろう。そもそも消費者にとっては、なんでこんな私的録音補償金を払わされているのか納得できる理由がほとんどないわけだしね。ただ、逆の意味でこういう少額の徴収をされることで、家庭内での私的複製に対しての何かしらの担保(それは合法的な行為ですよという保証)がもたらされ、CCCDみたいなクソなメディアが市場から消えるというのなら、全然俺は私的録音補償金制度認めますよ。まぁ、そういう方向にはいかないってことは分かってるけど、それでも消費者は何に対して不満があるのかというポイントを浮き出させる意味で、そういう視点での議論があった方がいいんじゃないかとも思う。

この問題を突き詰めていくと、結局どこまでザル分配に対して本気で対応するかという話にならざるを得ないわけだが、しかし音楽CDがメインの音楽リスニング環境である以上、DRMで何とかしようと思っても限界があるのも事実なのだ。だってCDが再生できるプレーヤーって世界に10億台以上(25年の累計でな)あるんだぜ。パソコンのリッピングだけ何とかしようっていったって、CCCDの失敗を見ればそんなの無理だろうってわかるだろうし、Vistaで対応するっていったって、XP使ってフリーのリッピングソフトとか使われたらDRMなんてどうにもできない。DRMに期待するのはいいけど、それは少なくともコピーガードではなくてコピーされたものをどうトレースして分配に活かしていくかって方法論しかないとも思うんだよね。CDに関しては。でもそれも今のところの具体論としてはXCPみたいなrootkit的方向に行ってしまいがちであり、そうするとプライバシー・個人情報保護の問題が云々みたいな感じで議論が紛糾していく。まさにループ&ループ。アジアンカンフージェネレーション。テイクユアシチュエーション。ゲットザグローリーですよ。

そういういろいろな要素があり過ぎるから、はっきりいうと俺の中でこの問題は結論が出ない。もっとぶっちゃければ「どっちでもいいや」という部分がないわけでもないのだ。俺ができることは今まで予定調和に陥りがちだった議論に対してどれだけ違う視点から「石を投げられるか」でしかないと思っているし、そのための戦略を今いろいろ考えてますよ。2年間あるわけだしね。

(追記)
私的録音補償金制度についてはWikipediaの記述が詳しくて参考になりますよ。

| 著作権 | この記事のURI | Posted at 17時00分 |

2006年03月29日(水)

音楽CDの再販制度は崩壊するか?

緊急告知!! (正々堂々blog)
音楽CD再販制度に反対するパブコメ(Where is a limit?)
「知的財産推進計画2006」の策定に向けた意見募集(ふっかつ!れしのお探しモノげっき)
レコード業界が知財パブコメに組織票かも+合わせたように輸入権行使(趣味の問題2)
緊急警報(The Casuarina Tree)
「知的財産推進計画2006」の策定に向けた意見募集(小心者の杖日記)
知財推進計画2006のパブコメで組織票大量コピペ中とか(忘れようとしても思い出せない日記 rebirth)

電気用品安全法問題の解決(という表現が妥当ではないことは重々承知の上で、ここでは便宜的に「解決」としておこう)に尽力した衆議院議員川内博史氏のブログで「緊急告知」が。6月に決定する政府の知的財産戦略本部の作成する「知財戦略2006」のパブリックコメント募集に、「音楽CD再販制度絶対護持」という感じのレコード会社社員と見られる大量の組織票が投下されている模様。このままでは輸入権の二の舞(あのときも同じことがあった)になるので、皆さん音楽CDの再販制度がおかしいと思っている人はみなさんパブリックコメント出しましょうね、という話題。


今年2月、政府の知財本部は以下のような感じな提言をまとめた。

コンテンツクリエイターとユーザーの「大国」に――知財戦略本部提言(ITmedia)
通信と放送の融合に著作権法の改正も検討を - 知財本部が提言(MYCOM PC WEB)

IPマルチキャスト放送に関しては「通信」扱いじゃなくて「放送」扱いにして、事後許諾で勝手に音楽などの権利処理を行えるようにしろというアレだ。で、報道ではこの側面ばかりが強調されていしまったが、これと同じ流れで知財本部は2月2日に開かれたコンテンツ専門調査会デジタルコンテンツ・ワーキンググループにおいて、デジタルコンテンツの振興戦略(案)(←リンク先PDF)というものを出している。ここで「提言」として挙げられているもので重要なのはここ

(提言3)ユーザーが豊かなコンテンツを楽しめるようにする
(1)過去に作られたコンテンツを利用するための著作権契約上の課題の解決
(2)音楽用CDにおける再販売価格維持制度の見直し
(3)コンテンツをより楽しむためのユビキタスネットワーク技術の実用化

というところ。要は知財本部がもう「音楽CDの再販制度はいらねーんじゃねーの?」と提言したわけだ。

ところが、レコード業界の中でもっとも「再販制度絶対護持派」である元エイベックス会長の依田巽氏がこれに吹き上がった。この提言を受けて開催された2月20日のコンテンツ専門調査会では依田さんがこの方針に対して以下のように述べている。

「(提言3)ユーザーが豊かなコンテンツを楽しめるようにする」ための「解決策」の「(2)音楽用CDにおける再販売価格維持制度の見直し」についてですが、音楽ソフトの持つ特性、または我が国の再販制度の歴史的背景、存在意義等をいろいろ考えてみますと、今回まだまだ関係業界、諸団体等との十分な検討がなされたとは思えませんし、もっと細かく問題点の整理がなされ、デジタルコンテンツ分科会において、再販価格維持制度の廃止を示唆する提言を盛り込む段階で、もう少し細部にわたった検討が必要ではなかろうかと思っております。

それは資料を御一読いただければと思いますが、今すぐに廃止を論議するというのは、ちょっと時期尚早ではなかろうかと思います。当コンテンツ専門調査会でも論議をする環境下にあるのかどうか、それも含めて、できればこの問題については、もう少し様子を見てからにしていただきたいということが、業界としても声が上がってきております。これは決して業界の援護ではなくて、専門調査員としての私の意見として御報告申し上げたいと思います。

はいはい皆さん、最後のところが笑いどころですよー。

いろいろ漏れ聞こえてくる話を総合すると、音楽CDの再販制度をどうするかというのはレコード会社によって(つまり、レコ協内部でも)対応はかなりまちまちだという。ある種のまだら模様ということだ。これはなぜか? レコード会社によって事情は違うのだが、ざっくりというと再販制度をなくしてくれた方が「楽」になるレコード会社があるからだ。CDの再販制度というのは、基本的に「返品」とセットになっている。小売店(CDショップ)に納品された売れないCDは発売元に「返品」し、小売店は納品時に支払ったお金をレコード会社から「返して」もらえる。これが小売店にはリスクヘッジとなり、いろいろな商品を仕入れることができ、再販制度維持派のよく主張する「カタログの多様性」につながっていた部分があったわけだ。

しかし、現実は放漫経営していた小売店があったり、レコード業界自体の景気が悪くなったりしたことで、小売店といえど仕入れたものを100%レコード会社に返品することができなくなった(これもその小売店がレコード会社の「特約店」であるか否かで扱いが違ったりするのだが、話がややこしくなるのでおおざっぱに返品がしにくくなった状況があると思ってもらえればいいだろう)。で、レコード会社の方に話を戻すと、以前よりかは返品の数が少なくなってきたとはいえ、とにかく今はCDが売れないからメジャーのレコード会社が出してきたCDが大量に市場の小売店の棚の中に「不良在庫」として眠っている。それらの売れないCDはいずれ返品されてくるわけだが、返品されてきたときにそれは当然小売店に返金しなきゃならない。棚の奥深くにいってしまったマイナーなCDなんてほとんど買われることがない。返品確実なCDってのはレコード会社にとっては「不良債権」なのだ。しかし、返品とセットである現在の再販制度がもしなくなったら、レコード会社的には、それらの不良債権化したCDを引き取らなくても済むようになる。つまり、一時的にそういう不良債権を「リセット」することができるようになるわけだ。体力のあるレコード会社ならそのあたりの不良債権もまだ何とか飲み込める部分はあるだろうが、体力のないところはむしろ再販制度なんかなくしてしまって、不良債権リセットして一から出直したいと考えるところもあるだろう。まぁもちろん、そういう経済的な事情だけでなく、いろいろな思惑でレコード会社は再販に対しては保持したいと思っているところもあれば、なくなってもいいかーと思っているところもあるということだ。

実際問題として、音楽CDの再販は時限再販制度が導入されてきてからどんどん骨抜き化はされていて今はほとんどの商品が半年以内に再販が切れるようになっている。ある意味では有名無実化している部分もあるので、その意味で「もういっそのことなくしちゃえよ」と思っている会社もあるんじゃないかと。

で、音楽業界でどこが一番この再販制度廃止の動きに反対しているか。その絶対的存在が他ならぬ依田さんなんだよね。エイベックスをああいう形で追い出されちゃった依田さんも、まだ政治の世界とのつながりでいえば抜群の力を持っている。エイベックスから退いた後もドリーミュージックに資本投下して「音楽業界に依田巽あり」というところを示している(投資自体は全然回収できてないみたいだけど。そらまぁ売れてるアーティストいないもんなぁ)し、この再販廃止反対っていうパフォーマンス自体が依田さんにとってはアイデンティティ的に重要なことなんじゃないかと俺なんかからは見える。その意味で考えると、さっき「笑いどころ」と書いちゃったけど「業界の援護ではなくて、専門調査員としての私の意見」というのは正しい表現なのかも知れないね。

で、依田さんの次に再販に反対している勢力はどこか。実はそれが小売店なんだな(正確に言うと小売店の組合である日レ商。ただし、日レ商内部もこの問題に関しては意見が割れている部分もあるようだ)。小売店としては、返品できる環境が残って欲しいという素朴な部分もあるんだろうけど、多分一番はシステムがシステムとして保持されなくなったとき、彼らは「音楽CDをいくらで売ればいいのかわからない」んだよね。昔ながらの小売店が時限再販切れたものをいくらで売ればわからないうちに、Amazonが音楽CD20%オフセールをやったり、再販対象外扱いになるDVD付き音楽CDをあらかじめ10%引きで売ったりするわけですよ。加えてAmazonはまさに小売店の奥でホコリをかぶっている「不良債権」化したCDもAmazonにとっては貴重な「ロングテール」であり、ユーザーが勝手に検索機能から見つけて注文してくれるわけだから、もうなんていうかリアルの小売店はよっぽどのことをやらないと生き残れないよね。

もっとも小売店の人もバカじゃないから今のままで良いとは思ってないだろうし、大手小売店の偉い人の中には「再販なくなることは我々にとってはピンチかもしれないが、チャンスでもある」みたいなことを非公式に言ってる人もいる。音楽流通のすべてがAmazonとiTMSに吸収されてもそれはそれでつまらない世界だし、現実はそこまで極端には動かない。だからこそ、再販制度なくすってことは小売店が今後生き残る意味では良いきっかけになるんじゃないかな。

まぁもちろん、再販制度に賛成、反対という立場はレコード会社によって事情が違うだろうし、俺が上に挙げた理由だけじゃないのも確か。ただ、大枠としてはそういう話が背景にはあったりするのですよ、と理解してもらえればいいだろう。

さて、じゃあ実際問題として音楽CDの再販制度はなくなるのか。依田さんが吼えた2月20日の4日後となる2月24日、知的財産戦略本部会合において、小坂文部科学大臣が再販問題に関して非常にトーンダウンした発言を行った。

新聞・書籍・音楽等の再販制度につきましては、著作物を全国同一価格で容易に入手することを可能とするほか、更に言うならば返品を可能とするような制度の採用が行われるわけでありますが、それによりまして全国どの店舗においても地域的な偏在なく、かつ流行にとらわれない多様な品揃えを可能とするなど、これらの点で文化政策上も重要な意義を有していると考えております。

特に音楽CDなどの再販につきましては、ネット上での音楽配信の普及、地域、高齢者などのデジタルディバイド、すなわちそういった機器が使えるか、使えないかの問題が出てまいりますので、こういった問題等を合わせて考えてみるならば、現時点では再販期間を時限的に運用する。すなわち一定期間、流行のもの、売れ筋のものについては再販を維持するが、一定期間経過後はそれを解除して競争的に流通できるようにするという時限的再販制度の採用が適切であると考えております。

同制度の在り方につきましては、文化振興の観点から十分な議論が行われるとともに、音楽関係者の意見についても十分に配慮し、慎重な議論が行われることを強く期待いたしております。

つまり、これは現状の時限再販容認ということだ。これと同時期に公取の上杉総長が読売新聞の取材に応えて音楽CDの再販除外に否定的な見方を示している。知財本部の提言がかなり強気なものだったことと比べると、このあたりで何らかの揺り戻しが働いていると見るのが自然だろう。まぁ、最初の指針では割と過激なことを提示して、議論の過程で「関係各団体との議論を尽くした上で、時期尚早と判断」みたいなところに落ち着くのが予定調和だとも言えるわけで、今回のこれもそういう話なのかもしれないね。ただ、以前はこういう再販制度見直し議論が出てくると、音楽業界は業界を挙げて反対した。とばっちりを受けたくない新聞・雑誌もこのことをタブーとして扱ってきたわけだが、最近はさっきも書いたようにレコード会社の内部にもう再販制度にこだわる必要ないんんじゃないのと考える人も出てきているし、役所的にもとりあえず新聞・雑誌に再販廃止の話をしてもどうやっても拒否反応が多くなるから、音楽CDだけ切り離して議論するという方法論を出したわけだ。そうすれば新聞も雑誌も否定しないだろうという思惑がある。そういう面でも現実的に本当に音楽CDの再販がなくなる可能性が十分に出てきていると言える。間違いなく近い将来、音楽CDの再販制度はなくなるのだろう。だが、それがいつになるのかは俺もわからない。

で、お前はどうなんだよと聞かれると、実は率直なところ当面はどっちでもいいんじゃないの? という感じだったりもする。日本の音楽CDは明らかに高すぎると思っているし、そのことによる販売機会の損失がかなり業界の構造的問題の1つだと俺は思っているけど、それはもはや再販制度があるから高価格化しているとも思えないんだよね。単純に時限再販でいいから、最初の価格を安くしろよっていう。ただ、今着うたやら音楽配信的なものが伸びてきて、間違いなく業界は変革の時代を迎えているわけだ。そのタイミングで再販をなくすのは業界全体が新たな気持ちでリスタートを切るという意味では悪くない選択だとも思う。

まぁレンタルの問題どうするかってのは横たわってるけど、レンタルだってもはや立派なセル店である(レンタル専業の業者はレンタル全体の数%でしかなく、ほとんどのレンタルはセルも行う複合店形態だ。そして、そうした複合店はCD小売店全体の3〜4割を占めている。TSUTAYAの伸び見てればわかるでしょ? しかも、この前の報道であったように大手小売店の新星堂にTSUTAYAが資本投下して新星堂がTSUTAYA傘下に収まることになった。今以上にレンタルと小売りを明確に区別することは難しくなっていくわけですよ)わけで、そうなるとそれを全部潰しますかってのも無理筋な話だよなぁっていう。

再販廃止っていう意味では、お前が所属している出版の業界はどうなんだよ? と言われると、日販トーハンが支配するいびつな状況が改善されるのなら再販なくなった方がいいんじゃないのか、くらいには思ってる。つーか、再販制度がもたらしてくれたポジティブな「カタログの確保」なんて、Amazonのなか見!検索とかGoogle Printがきっちりロングテール拾ってくれるだろうからいらねーよ! と思わなくもないのだが、日本の場合世界でももっとも高水準の価格の音楽CDと違って、書籍に関しては世界でもかなり安い部類だからねぇ。1枚数十円の物理コストしかかからない音楽CDと比べて、毎年高くなる一方の紙にかかる書籍の物理コストって相当なもんですよ。それがもし再販制度廃止で瓦解してしまうとなると、それはそれで寂しくはなりますわな。だから、ちょっと俺は結論出せない。まぁ俺は単行本で食ってるライターでもないのでいいっちゃいいんだけど。

話がずれまくった。いずれにせよ、パブリックコメントの締切は今日(3月29日)の午後5時までです。歪んだ組織票で政策が決まっていくってのは、普通に腹立ちますわな。再販制度に対して思うところある人はぜひ簡単なコメントでも良いので、送るといいと思いますよ。官僚の人は、思った以上にパブリックコメントを「民意のアリバイ」として利用……いやそれは言葉悪いな。きちんとパブリックコメントを活かしてますしね。


最後に音楽CDの再販問題を考える際にはこのあたりも読んでおくといいかも。
再販制度は崩壊するか(コデラ ノブログ)
これが(owner's log)
ビックリしました(owner's log)

| 音楽業界全般 | この記事のURI | Posted at 02時54分 |

2006年03月26日(日)

クリエイターは「批評されること」そのものを問題にしているのではない

作品を批判すること(naoyaの日記)
いいモノを作るためには適切な批判が必要(Nao_uの日記)
「クソゲー」という言葉を受け止められない人間がゲームを作るな、と言いたい(発熱地帯)

このあたりの話題。ネットにおける批評はどうなのよ問題は常にグルグルバターになりますな。

随分前に俺も近いような話をはてなダイヤリーの方に書いた。そのあとも関連する話題をちょっとずつ書いている。

酷評するヤツに守ってもらいたいルール(Don’t lose your temper)
たった50字で批評気取り?問題(Don’t lose your temper)
otsuneさん日記のフォロー(Don’t lose your temper)

長いので言いたい部分を要約転載すると

現実的な提案かどうかはさておき、俺がやってもらいたいのは、物事を批評するとき、最後に「自分が好きなものを列記する」ということを基本的なマナーにすることだ。俺が言いたいのはつまり、読者の側も批評される側も単純にそいつがどういうものが好きなのかということを事前にわかっていれば「こいつとは趣味や価値観が違うんだな」と納得できるし、変に傷が付くことが少なくなるんじゃないかということだ。別に匿名でもいいんだよ。そいつのハンドルやら実名が知りたいんじゃなくて、批評してくるやつの立ち位置が知りたいだけなんだよね。

当時劇作家の鴻上尚史が言っていたのだが、「えんげきのぺーじの一行レビューは絶対に見ない。少なくとも何か作品を見て語ろうとしたときに、それは一行なんかで書けるものでないからだ」みたいなことを言ってたんだよね(正確な発言や媒体は忘れた)。要するに劇作家である以上、作った作品に対して批評(それが酷評であろうと)されるのは当然ではあるし、その覚悟もあるが、しかし少なくともえんげきのぺーじに書かれているような「カジュアルなレビュー」は批評以前のものだろうと。もちろん50字で喫茶店ダベリング感覚で思いついたことを言いたい(それをサカナにコミュニケーションしたい)だけという自覚がある人は、そういうはてブのコメントについて「批評」なんて大上段に構えた単語は使わないだろう。「作者(リンク先)がどう思おうが知ったこっちゃねーよwww」という人がゆるやかなつながりを持つことで生まれる生ぬるい気持ちよさってのがあるのも何となくは理解できる。俺だって私生活で友人と話してるときはいろいろなものの悪口言いまくりだ(でも俺はさすがにそういうのをネットに持ち込むのはスマートじゃないと思ってるのでやらないわけだが)。ま、いずれにせよ「だべってるだけだよ」という感覚がある分だけ、マシなようは気はする。問題(だと俺が思っているの)は、自覚のない層だ。自覚のない層は多分2種類の人がいて、1つは本当に批評とかそういうものを超えてナチュラルに脊髄反射的なことしか書けない、あるいはネットがどこにおいても2ちゃんねる的みたいなものと思っている人だ。それはある種の確信犯と言えるかも知れないけど、小学生の頃から普通にネットがあってそういうネットの付き合い方してる人には、ネチケットとかそんな古い概念自体が通用しないんじゃないかとも思う。

自分のブログやブックマークページでコメントするなら好きにしてくださいって話で、そんなものをどうにかしようなんて思う方が馬鹿げてる。そうじゃなくて、ブックマークのコメントを一覧形式で閲覧することによってこういう問題起こしがちである側面を持ってることに、俺は(ある意味で他人事ながら)不満を持っているという話であり(自分の書いたものに対して素早く評判をチェックできるって意味では俺自身重宝している部分もあるし、別に俺の書いたものに対して何か言いたいやつは言わせておけくらいの覚悟は持ってますよ。ここはホントに誤解されたくない)、場の在り方として、あのコメント一覧は当然メリットとデメリットがあって、現状デメリットの方があまりにも考えられてないんじゃないの? ということが言いたいだけ

素朴な感情としてネット上で何かに言及するならそれなりに言葉は尽くして欲しいとは思うんだよね。ネタ的なこととか、単純に思ったことを言及相手を気にせず言える風通しの良さがネットにあった方がいいのは俺も分かるけど、そういうのは全部2ちゃんねるに任せちゃうっていう棲み分けを行うとかさぁ。どっかでバランス取った方がいいような気もするんだよね。

この問題を語る上で難しいのは、naoya氏、Nao_u氏、DAKINI氏それぞれの意見が対立しているようでいて、(俺から見たら)全部納得できるところがあるっていうところなんだよね。批評そのものの定義がそれぞれによって微妙に違うし、何が問題なのかというポイントがずれているから、話が噛み合わないのかなとも思う。

ただ、三者に絶対的に共通している意識は「作った作品に対して批判を受けるのがプロであり、それをクリエイターの側が制限しようとするのは愚かなことだ」という原則だろう。そんなもん、プロのクリエイターだったら当たり前の意識として持っていなければいけないものであり、今更それを消費者の側から鬼の首を取ったように「クリエイターの甘えじゃないの?」と指摘するのは、ほとんど意味のないことだと俺は思う。naoya氏が問題にしているのは、作品に対する批判があるのは当然とした上でユーザーの批評の在り方とか、それを醸造する空気を作り出すシステムに対する言語化しにくい疑問みたいなことなんじゃないだろうか。

果たしてゲームの発売日の前から思いこみや前評判による勝手なレビューを付けられてしまうAmazonのレビューシステムはどうなのか。DQNなエントリを書いたブロガーに対して総攻撃を行うために作られたはてなブックマークのPermalinkはどうなのか。2ちゃんねるで日夜繰り広げられる「社員書き込み者」による、ライバル社の製品への誹謗中傷書き込みはどうなのか。

それらはすべて受け手側のリテラシーの問題だよね、と言い切ることは簡単だ。でも、メディアリテラシーなんて簡単に身につけられるものじゃない。人は自分が信じたい情報を信じるし、何となく(あるいは計算づくで)作られたその場の空気に流されるのは基本的に気持ちのいい(楽なこと)ことだからだ。大体、いちいちその情報の信頼性を調べるのに複数ソースを当たって、さらにはネットではわからない部分の情報も含めて検証したりするほどネットユーザーは暇じゃないし、そもそも毎日流れてくる情報の速度が年々速くなっている状況でリテラシーなんて本当に身に付けられるのかという話もあるだろう。

だから、俺は具体的にこういう問題に解決策があるのかどうかはともかく、箸にも棒にもかからない(しかし、悪意だけはふんだんにこもった/悪意はないが読んだ人や批評された側が不快になる)「批評」を、誘発しがちな「場」そして「場の在り方」について疑問を持ち続ける必要があると思ってるし、それがその状態で放置されていていいのか、ということも含めて考えなければいけないと思っている。

興味深いのは、naoya氏のこの発言

何がそんなに頭に来たかというと、単に自分が面白いと思ったものを批判されてるからというわけではないです。そうじゃなくて人が一生懸命作ったものを安易にクソゲーだとかいってボロクソに書く無神経さが許せない、という感じです。

ここに噛みついている人も多いし、誤解を招きやすいところだけどnaoya氏は「一所懸命作った作品を否定されること」を問題にしているのではなく、その批評する「態度」のことを問題にしているはずだ。俺はそれは消費者のリテラシーの問題ではなく、もしかしたら「システム」がそういう態度を誘発しているんじゃないかと考えているし、そういう空気が生まれがちなはてなブックマークの「コメント機能」が嫌いなわけだけど、まさにそういう話が他ならぬはてなブックマークを開発したnaoya氏から出てきたというところに皮肉なものを感じざるを得ない。

あと、こういう話題をすると必ず出てくる反応が「クリエイター様はそんなに偉いんですか?」というお決まりのフレーズだが、こういうツッコミはある一面では正しいし、ある一面では間違っていると思っている。一口にクリエイターといっても作り出すものによってさまざまな違いがある。それは作っている作品のジャンルということではなく、端的に言えば「0→1のクリエイター」と「1→10のクリエイター」には大きな違いがあるということだ。

そして本当の意味で純粋にモノを創り出すことにしか興味がないような純粋な「クリエイター」は、「0→1のクリエイター」の側に圧倒的に多いことも事実である。そして俺はそういう人たちは「偉い」とか「偉くない」とかそういうレベルではなく、単純に「凄い」と思ってるし、そういう人たちがネット上のくだらない中傷によってモノが創れなくなってしまうことはもったいないとも思っている。「それが現実社会だ」「金払ったお客さんたちの意見はどんな意見でも聞くべき」「プロとしての意識が足りない」「本当に自分が創ったものに自信があるならくだらない意見なんか流しておけ」といった意見はどれも正論であり、俺自身その通りだと思うのだが、「0→1のクリエイター」のような人たちがどれだけのびのびと活動できるかで、その国の文化レベルみたいなものが知れるんじゃないの、とも思う俺は今の作品に対して消費者が気軽にモノを言える環境(喫茶店のダベリトークが全世界に、そしてクリエイターに直接読まれることを想定されずに垂れ流されている環境)にいびつな部分を感じてしまうのだ。

人がある作品に触れたとき、「これはクソだな」と思うことは止めようがないし、そんなことを何かの力を使って止めようとするのは単なるファシズムだ(逆の意味でいえば、自分がクソだと思った作品を淘汰するために悪意ある酷評で徹底的に叩き、世の中を自分好みの作品だけにしようとする行為もファシズム的だと俺は思うし、そういう人間は大嫌いだ)。だが、気分に流されやすい消費者が作品に対して安易に責任を取らない言説を垂れ流せるシステムがそのままの形で放置されていいのか、という問題については多角的な面からどうすればいいのか考えられるべきである、というのが俺のスタンスだ。

Amazonのレビューシステムはあんな状態だが、それでも一応Amazon側のスタッフが内容をチェックしてから掲載されている。だが、Amazonとほぼ同じシステムを使ったiTunes Music Storeのユーザーレビュー機能は、俺の推測だが恐らくAmazonが最低限やっているようなチェック作業をしてないのではないか。そのため、楽曲によってはかなり悲惨なレビューがたくさん付いている。単にユーザー側、クリエイター側のリテラシーでそういうレビューは無視すればいいじゃないかというのは簡単だけど、俺はシステム側の工夫である一定レベルまで達していないレビューはフィルタリングした方がいいと思っている。要するに喫茶店のダベリトークレベルの話はクローズドな場所、ネットでいえばSNSみたいなところでやっておけばいいじゃんっていう。もちろん、ダベリトークが全世界に公開されることで生まれる面白さがあることは否定しない。だが、今の状況はそれによる負の面があまりにも考慮されていないのではないか、と俺は思う。そこの部分はどうしたって結論出ないのかもしれない。でも、そこの部分をなあなあにするんじゃなくて常に今後を見据えて考えていく態度そのものが重要なのではないかと思うのですよ。

知り合いの高名な音楽評論家がこの前いみじくも言っていた。「今は消費者が音楽を購入するとき、雑誌の音楽評論よりもAmazonのユーザーレビューの方が信頼される時代だからさ」。自嘲気味に彼は言ったが、良い悪いじゃなくて状況認識として「正しい」と俺は思った。良い悪いじゃなくて、そういう時代。もちろん個々のユーザーレビューを見たときに雑誌の音楽評論よりも優れたユーザーレビューはたくさんあるし、雑誌の音楽(に限らずすべてのジャンルの)評論の在り方も見直されなければならない時期にきているのかもしれない。しかし、それでも評論(以前のものも含めて「レビュー」や「ブックマーク」の場では評論として一緒くたにされてしまう状況を含めて)がカジュアル化した現在の状況がポップカルチャーの制作現場に良い影響を与えているとは俺は思えないのだ。

単なる賞賛より的確な批判の方がクリエイターの次の作品作りにとっては良い材料になるという話も理解できるが、実は「0→1のクリエイター」は、それすらもあまり関係なく自分の衝動でモノを創っているケースも多い。だったらくだらない批判なんかも関係ないだろうという話もあるが、これが逆で批評の名を借りた剥き出しの悪意が自分に向けられることに対して過敏に反応してしまう人もいるのだ。実は「賞賛よりも的を射た批判がクリエイターの糧になる」というのは、俺個人は「1→10のクリエイター」の人たちなのではないかと思っている。俺自身が完全に「1→10」の人間だしね。俺は「0→1」の人たちが気持ちよく創作活動を行ってくれて、それができれば食うに困らないくらいの報酬も彼らにもたらすような「環境」を作れればいいなと思っている。ありきたりな言い方になるけど、そういう環境がなければ文化的な「豊かさ」は生まれないのではないか、みたいな。

音楽の話でいえば、IT技術やネットが進化したことによってインディーが力を得られ、これまでメジャーレコード会社に独占されていた「音楽を消費者に届ける」ということが、自分たちの好きなようにできるようになった。ロングテールのアーティストに「食える」可能性をもたらしたという意味で、IT技術やネットは最大限評価されるべきだろう。しかし、そういうポジティブな面だけでなく、ネットの公共性や、あまりにも簡単にデジタルコピーされて流通してしまう状況が(すべてとは言わないが)「0→1」の(場合によっては「1→10」も含めた)クリエイターたちを苦しめていることも事実である。しかし、それを嘆いたところでAmazonのレビューもはてなブックマークも2ちゃんねるもファイル交換ソフトもなくならないし、もう昔に戻ることはできない。だからこそ今、昔の状況は本当に良かったのか、ということも含めてコンテンツ制作にIT・ネットがもたらしたものの功罪両面を洗い直していく必要があるのではないかと思う。

| インターネット全般 | この記事のURI | Posted at 00時56分 |

2006年03月17日(金)

来るべきデジタル音楽時代に備え「デジタル音楽勉強会」を今後月一のペースで開催していこうと思います

えーと、個人的な話なのですが不肖私儀、この春から文化審議会著作権分科会の私的録音録画小委員会の委員として、私的録音録画見直しも含めた抜本的見直しの議論に参加することになりました。ITやデジタル音楽に詳しい消費者寄りの立場からの発言を求められてのことかと思います。私的録音問題の今後をどうやっていけばいいのかってことは僕自身の中でも完全に結論出ているわけではないので、いろいろ勉強して若輩ながら意見を言っていこうと思ってます。

で、ですね。せっかくそういう機会を頂いたこともあるので、前々から思っていたのですが、レーベルとかIT業者とかインディーズミュージシャンとか、今後デジタルを使って音楽ビジネスに関わっていこうと思っている人たちで集まって今後デジタル音楽がどうなっていくのかいいのかとかそういうことをみんなで雑談しながら考える「勉強会」みたいなものをこれから月一くらいのペースで開催しようと思っています。まぁ勉強会っていっても、講師とか呼んでやるような大層なものじゃなくて、とにかく立場とか関係なしに活発な意見交換ができるといいなーと。第1回は4月12日(水)を予定しています。参加費とかもいらないので、そういう勉強会に興味がある人はぜひふるって参加していただければありがたいです。

第1回「デジタル音楽勉強会」 概要

●開催日時:2006年4月12日(水)午後5時〜7時

●場所:東京都世田谷区下北沢周辺(参加確定者に詳細をお知らせいたします)

●参加条件:
・現在、デジタル技術やIT技術を使った音楽ビジネスに何らかの形で携わっていること
・デジタル技術やIT技術を使った何らかの音楽ビジネスの立ち上げを考えている
・音楽が好きで、デジタル音楽がもたらす様々な可能性に対してポジティブな考えを持っている
・勉強会の席上で出たオフレコ話を外部に漏らさない

●募集人員:特に制限なし(ただし、会議室のスペースの関係で応募多数の場合は場所が変更になる、もしくはお断りする場合がありますので、あらかじめご了承ください。)

●費用:一切無料(交通費は自己負担でお願いします)

●応募方法:氏名、所属、現在どのような形で参加条件を満たしてるかを記載したメールを送ってください(送付先はこのサイトの「メールはこちらに」に書いてあります。参加希望以外のお問い合わせもそちらにお願いします)

●応募締切:2006年4月7日(金)

皆様のご参加、お待ちしております!

※今回の募集は締め切りました! また次回5月に開催しますのでよろしくお願いします

| デジタル音楽勉強会 | この記事のURI | Posted at 17時16分 |

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