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※以下の記事は株式会社インフォバーン発行の有料メールマガジン 週刊サイゾー2.0 Vol.10(2001/09/14発行)とVol.11(2001/09/21発行)からの転載です。

記事の著作権はすべて株式会社インフォバーンと著者の北川匡氏に帰属します。記事を許可なく転載することを禁止いたします。
(弊サイトは株式会社インフォバーン様から当該記事の転載許可を頂いております)

 
 
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■2 新法によってJASRAC独占はどうなるか?(前編)
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▼長きにわたり、その事業独占が音楽業界内部から批判されてきた、JASRAC
(社団法人日本音楽著作権協会)。今回、その寡占状況から一転、新規参入への障
壁を低くするための新法「著作権等管理事業法」が施行される。それに対し、当の
JASRACでは……。

○     ○     ○     ○     ○     ○     ○

 「これは明らかに、JASRACの悪しき策謀ですよ。新規参入者を潰すための
ね。巨大組織化したJASRACから見れば、われわれ小さな新規参入者など虫け
ら同然に眺めるだけで、まったく動じないだろうと思っていたのに……。
新法の10月1日スタートを前に、JASRACが相当に動揺していることを示す
ひとつの証左になるでしょう」

 こう語るのは、音楽著作権管理事業に新規参入する企業の役員だ。来る10月1
日は、いうまでもなく、わが国初の「著作権等管理事業法」が施行される“記念す
べき日”。

 日本音楽著作権協会(JASRAC)は、1939年に制定された「著作権に関
する仲介業務に関する法律」(仲介業法)によって、実に60年以上の長きにわた
り、音楽著作権の管理業務を独占してきた。だが、政府が推進する規制緩和政策の
下、ミュージシャンの坂本龍一氏らから上がった独占批判や、ネット配信など多様
化する音楽環境に、旧来の著作権管理の在り方がミスマッチであることなどから、
JASRAC独占を根拠づける仲介業法に代わり、先の新法が発動する運びとなっ
たのである。


◆新法によって最も大きく変わるのは何か?


 それは、JASRACなど著作権管理事業者が認可制から登録制となること。こ
れによって、JASRAC以外の事業者、たとえ公益法人ではない営利企業であっ
ても、一定条件を満たせばこの分野に参入できる。つまり、JASRACの独壇場
だった音楽著作権管理事業に競争原理が導入され、今後はJASRACと新規参入
者との間で熾烈なお客(著作権者)の奪い合いが始まるのだ。

 すでに、中村雅俊や近田春夫を育てた元プロデューサーの三野明洋氏と博報堂、
豊田通商、NTTエムイーコンサルティングの3社が共同出資してつくった「イー
ライセンス」や、浜田省吾、スピッツなどが所属する音楽プロダクションと音楽出
版社など約11社で設立した「ジャパン・ライツ・クリアランス」などいくつかの
企業が第2、第3のJASRAC候補として名乗りをあげている。

 冒頭の役員が言う「JASRACの悪しき策謀」の標的となるのは、新法施行後
にJASRACの競合相手となる、これら新規参入者のことである。

 では「新規参入者を潰すための」JASRACの「悪しき」策謀とは何なのか?

 役員はJASRACの「著作権信託契約約款」の中にその秘密が隠されていると
言う。

 著作権信託契約約款とは、JASRACが定めた内部規定。JASRACと音楽
著作権者である信託者との間で結ばれるもので、信託者は約款の内容に従って、定
められた義務を履行しなければならない。JASRACは、先頃、この約款を改正
し、改正約款は来年4月から適用されることになっている。

 役員の説明を聞こう。

 「いままで作詞家や作曲家など音楽著作権者は、創作した作品の著作権をすべて
JASRACに一括して信託するか否か、つまり“オール・オア・ナッシング”の
選択しか許されなかった。ですが、新法によって、音楽著作権のすべて、また著作
権のなかに含まれる演奏権や放送権、録音権など支分権と呼ばれる権利について、
どの作品のどの権利を、どこの音楽著作権管理会社に信託してもいいことになるの
です。たとえば、ある楽曲の演奏権はJASRACだけど、放送権はA社、録音権
はB社といった具合。

 JASRACは、現在信託を受けている著作権が他社に横取りされるのを防ぐた
めに信託契約約款を改正してしまった。これはいわば、著作権者への脅しと同じ。
著作権者は他社に乗り換えることに二の足を踏まざるを得なくなったのです」

 役員は、改正約款の次の条文こそが問題だと指摘する。

 「……信託期間中に本契約を解除した委託者は、解除した契約に定める信託期間
の終期が到来するまでの間、受託者に著作権を信託することができない……」
(著作権信託契約約款第21条2項、抜粋)

 「本約款第21条第2項前段の規定にかかわらず、著作権存続期間の委託者が本
契約を解除したときの信託禁止期間は、当該委託者が本契約を解除しなかったとし
たならば……信託著作権の管理委託の範囲を変更できることとなる日が到来するま
での間とする」(同附則第五条)

 「これがJASRACのウルトラCなのか!!」。

 実際、条文を見た著名な作曲家の目は上記の部分に釘付けになり、JASRAC
から他社に乗り換えるのをやめたそうである。やはり約款改正の影響は大きかった
ようだ。

 次号では、JASRACが放ったウルトラCの意味と衝撃。さらに新法前夜の業
界のドタバタぶりについてリポートしたい。

                           ●取材・文 北川 匡

 JASRACのウェブサイト → http://www.jasrac.or.jp/



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■4 新法によってJASRAC独占はどうなるか?(後編)
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▲新法「著作権等管理事業法」は、長きにわたるJASRAC(社団法人日本音楽
著作権協会)の著作権管理の独占支配に風穴を開けるかと思われた……。しかし、
JASRAC側もそれを黙認しているわけではなかった。“新規参入者潰し”と囁
かれる、その手法とは?

○     ○     ○     ○     ○     ○     ○

 60年以上もの長きにわたって音楽著作権の管理を牛耳ってきたJASRAC。
その独占を根拠づけていたのは「著作権に関する仲介業務に関する法律」(仲介業
法)だ。

 だが、来る10月からこの旧法に代わって新法「著作権等管理事業法」が施行さ
れることになり、JASRAC独占の歴史に、いよいよピリオドが打たれることに
なった。

 新法によって音楽著作権管理事業に競争原理が導入され、新規参入者が次々にな
だれこんでくる。今後は楽曲の担い手である作曲家や作詞家などが所有する音楽著
作権をめぐってJASRACと新規参入者との間で熾烈な戦いが繰り広げられるだ
ろう。

 が、JASRACとて対抗勢力に対しただ手をこまぬいているだけではない。前
号で述べたように、彼らは「新規参入者を潰すための“ウルトラC”を放った」の
だ。“ウルトラC”とはJASRACの内部規定である「著作権信託契約約款」の
改正である。

 JASRACと競合する会社の役員が説明する。

 「来年4月から適用される約款の改正によって、作詞家や作曲家など著作権者の
JASRACへの信託期間は一律5年間、契約更新日も一律4月1日となります。
よって原則として2002年4月1日に契約更新した人は、2007年3月31日
までJASRACへの信託期間がそのまま存続します」

 「今年10月から新法施行により他社に著作権を信託することが可能になるわけ
ですが、その場合は本年11月末までに届けを出す旨をJASRACでは通知して
います。ところが問題はいったんJASRACを出てしまったら、何年も戻ってこ
れなくなるということ。文字通り『行きはよいよい、帰りは怖い』になってしまう
のです」

 この「行きはよいよい、帰りは怖い」とはいったいどういうことなのか?

 役員が話を続ける。

 「JASRACは改正約款の第21条2項で、『契約を解除した委託者(著作権
者)は解除した契約に定める信託期間の終期が到来するまでの間、受託者に著作権
を信託することができない』とし、附則第5条で『契約解除したときの信託禁止期
間は、委託者が本契約を解除しなかったとしたならば、信託著作権の管理委託の範
囲を変更できることとなる日が到来するまでの間』と規定している」

 「つまり新法施行後、契約解除した者は、その後どんな事情があろうと2007
年4月までJASRACと再び契約できなくなるのです。著作権者にとってこれは
恫喝ともいえる措置。おかげで、他社に乗り換えようとしていた著作権者の足が止
まってしまった。新規参入者の事業展開に早くも暗雲がたれこめた感じがします」

 著作権者が躊躇(ちゅうちょ)するのも無理からぬ話。JASRACと競合する
新規参入組にはまだ実績がなく、海のものとも山のものとも判断できない。対する
JASRACは創立61年、年間取扱額は類似団体中世界ナンバーワンの1063
億円を誇る。その集金力の秘密は全国に擁する23もの支部組織。総勢250人と
もいわれる「カラオケGメン」が、飲食店やカラオケボックスから著作権使用料を
徴収するため日夜目を光らせている。

 新規参入者に、そんなJASRACのマネができるだろうか?

 答えは明らかである。これほど巨大なインフラを新規参入者が一朝一夕で構築で
きるわけがない。

 JASRACでは約款の改正について、「管理委託範囲の変更が“5年ごとでな
ければできないという制度”の抜け道になってはならない。そのため、契約解除し
なかった場合に、 その契約の信託期間が満了するとされていた日までの間、再度
JASRACと契約を締結することができない」としている。

 20年ほど前、大ヒットを飛ばしたポップス系の作曲家がこう語る。

 「現行、著作権使用料の大半を占める複製権(CD、ビデオなどへの録音)につ
いてはJASRACに預けたままにしておくとしても、貸与権(CD、ビデオなど
のレンタル)や、公衆送信権(インタラクティブ配信など)などは競合会社に移す
つもりだった。だが、それは万が一、競合会社がダメだったらすぐJASRACに
戻れると思っていたから」

 「約款改正で2007年まで競合会社に任せるしかないとなると話は別。ネット
配信は近い将来、携帯電話配信やKIOSK配信が本格化したら、複製権を上回る
ビッグビジネスに化ける可能性がある。そのときはたして新規参入者が生き残って
いるかどうか、また生き残っていたとしても、著作権使用料の徴収をきちんとでき
るかどうかさえわからない。著作権使用料は大事な生活の糧。新規参入者にバクチ
は張れない」

 実はこの作曲家のようにJASRACから他社に乗り換えたいという会員は相当
数存在する。乗り換え希望組は「管理手数料は場合によっては米国の2、3倍。著
作権料は執行部の大多数を占める演歌系に手厚く配分されている」といった不満を
持つポップ系会員が中心だ。

 だが、背に腹は代えられない。どうやら記念すべき新法がスタートしたとしても、
JASRACによる著作権管理の独占支配はまだまだ続きそうである。

                           ●取材・文 北川 匡
 
 
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