about
archive
article
bbs
link
mail
mobile
radio


AND OR

 
★音楽配信
(実業の日本-JN- 2001年5月号 「JN EXPRESS」)
 

 最近の急速なブロードバンド時代の到来に合わせて、音楽業界もネットワークを使った新しいビジネスを本格的に始めている。その代表的なサービスが「音楽配信」だ。これは、アーティストの楽曲をパソコン上で再生できる「データ」の形式にして、インターネット上で販売するというもの。購入した楽曲はインターネットを通じてダウンロードすることにより、パソコンなどで再生できる。

 配信される音楽データは、CDに収録されているそのままの形式では容量が大きすぎるので、ファイルに「圧縮」をかける(画像で言えばJPEGファイルのようなもの)ことによってサイズを小さくし、ダウンロードがしやすいようになっている。音声圧縮形式にはさまざまなものがあるが、インターネットで数年前から“標準”的に使われているのは「MP3」という形式だ。MP3は、ほとんど音質を損なうことなく、音声ファイルを約10分の1まで圧縮できるということで、インターネットを中心に爆発的に普及したが、「デジタルコピーに一切制限がない」という問題があった。

 通常、CDからMDにデジタルコピー(録音)する際は、「SCMS」という規格で「コピーが1世代まで」という制限がかけられている。つまり、CDからMDにデジタルコピーすることはできるが、デジタルコピーしたMDから他のMDにデジタルコピー(孫コピー)することはできないのだ。こうした制限をかけることで、CDの著作権は守られているのだが、MP3データは単なるパソコンで扱えるファイルなので、無制限にコピーすることができてしまう。そのため、音楽配信を「ビジネス」として行うレコード会社は、著作権の保護機能が付いた(不正コピーができない)圧縮形式を採用しているのだ。

 圧縮形式にはさまざまなものがあるが、現在日本のレコード会社が採用しているのは「ATRAC3」「WMA」「AAC」などだ。これらの圧縮形式はどれも著作権保護機能を持っており、通常はダウンロードしたパソコンもしくは、認証を行った外部機器でしか再生することができない。

 「ATRAC3」はソニーが開発した形式で、元々MDに使われている「ATRAC」をパソコン用に改良したもの。圧縮率はMP3とほぼ同じだが、著作権保護機能を持ち、様々なハードウェア機器に組み込みやすいというメリットがある。

 「WMA」はマイクロソフトが開発した形式で、WindowsMeなどに標準搭載されている「Windows Media Player」で作成・再生が可能。MP3よりも圧縮率が高く、特に低ビットレート(音質)時の音質に優れている。

 「AAC」はDVDやBSデジタル放送でも採用されている音声圧縮形式。MP3よりも圧縮率が高く、音質も優れているので次世代音楽配信の「本命」とも言われている。

 レコード会社主導の音楽配信とは別に、インターネットのユーザー主導で発展した特殊な「音楽配信」も存在する。それが「Napster」だ。Napsterは、各個人が所有しているMP3ファイルを複数のユーザーで「共有」することができるというソフト。簡単な操作で適当に欲しい曲名を検索すれば、Napsterのサーバーに接続しているユーザーのハードディスクを検索して、その曲をダウンロードすることができる。実際のファイルのダウンロードは個々のパソコン同士で直接やり取りするのがこのシステムの最大の特徴。つまり、Napsterは個人個人がMP3ファイルを交換するための「仲介」を行っているソフトであり、業者なのだ。

 ユーザーにとっては便利なことこの上ないソフトだが、レコード会社からしてみれば、著作権保護のかかっていないMP3ファイルをネット上で不法に垂れ流されているようなもの。当然の結果としてアメリカで大規模な裁判が起き、つい先日裁判所から「Napsterは著作権侵害に当たる」という判断が下された。現在は有料サービスの導入などで、レコード会社との和解の道を探っているところだが、米国レコード業界の姿勢は頑なで、サービスの存続は微妙な情勢になっている。

 その一方で、Napsterから派生した「Gnutella」というソフトも問題になっている。これは、Napsterのように特定のサーバーを必要とせず、Gnutella利用者同士で勝手にファイルを検索しあって、ファイルを交換することができるソフト。特定のサーバーがないというのは、つまり運営母体もないということで、アーティストやレコード会社は訴訟を起こしたくても、訴える対象が存在しないのだ。しかも、GnutellaはNapsterのようにファイルの交換対象をMP3に限定している訳ではなく、パソコンで扱えるファイルならば何でも自由に交換できる。つまり、不正コピーされた「ソフト」などもやり取りできるという訳だ。

 違法な面ばかり語られることの多いNapsterだが、Napsterの提示したユーザー同士で自由にファイルを交換できるという概念(「ピアツーピア」と呼ばれている)が、今後の音楽配信のあり方に一石を投じたことは確か。著作権保護という解決していない問題はあるが、ユーザーニーズ主導の音楽配信システムとして、今後も様々な分野で影響を与えていくだろう。

 
 
< Back
 
> Home <